偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

中学受験で過去問対策に取り組む場合のポイント

もうすぐ9月、多くの受験生が過去問に取り組み始める時期ですね。今日は過去問への取り組みや考え方についてポイントを書いてみます。

予めチェックしておくと良いのは、どの範囲の問題がどの程度の難度かということ。今の実力でどの程度取れそうかのアタリをつけ、合格者最低点と合格者平均点を見てみましょう。まるで歯が立ちそうにないのか、ある程度闘えそうなのか。検討中の5〜7校分くらいは見ておきます。

入試問題には篩にかける目的がありますが、同時に「どんな問題を解ける子に来て欲しいか」という学校からのメッセージでもあります。回答形式や難度と配点に所要時間、子供の得手不得手と比較してどうか、という内容を見てください。

慣れていないと1校分でも疲れますが、これを把握した上で受験校を検討するのと、偏差値やイメージだけで学校を選ぶのでは大きく違うので、頑張って目を通してください。志望校選定だけでなく、子供が苦戦している時にアドバイスしたり、何が大変なのかを理解して寄り添う助けにもなります。

初見での得点にはこだわり過ぎないこと。過去問題集の配点は学校側から開示がなければ想定値ですし、部分点は更に曖昧で、採点者によって得点に幅が出ます。塾が採点〜添削までやってくれる場合は、最大限使い倒しましょう。塾の指示するタイミングで過去問をやる最大のメリットは、ある程度信頼性の高い採点をして貰えることです。

前年度のものは直前期にとっておいても良いですが、同じ問題が出る訳ではないので、こだわる必要はありません。解く際には途中でトイレにも行かず、水も飲まないで、必ず制限時間を守りましょう。


どの学校から手をつけるか

これは、今のレベルによって取り組み方を変えます。偏差値が届いている場合は、第一第二志望から手をつける形でも良いですが、少し厳しい場合には、まず安全校と考えている学校から始めると良いです。目安としては、50〜80偏差値に届いている学校から手をつける感じですね。

偏差値が届かなければ対策しないという意味ではなく、まず確実に合格を取りに行ってから本命に時間をかけるイメージです。入試はそれぞれの学校に特徴がある上に本番特有の緊張感というものがあるので、偏差値が届いていても過信は禁物。上位志望校だけに目が向き、他の学校を無対策で受ければ、全落ちのリスクが上がります。

塾では御三家とか難関コースとか、偏差値順に学校のランクを考える意識がつきやすい構造ですが、偏差値が高くない学校にも熱望組はいます。こういう子が過去問もしっかりやり込むと、入試問題を目にした時の余裕が模試での偏差値以上に大きくなり、学力的にも余裕がある子だと、ほぼ確実に合格を取ってくるようになります。

逆に偏差値的に見れば余裕がある学校でも、初見だと癖のある出題形式に戸惑ったりします。学校見学などで教室やトイレを把握してイメージしておくことが「地の利を知る」なら、過去問を解くことは「敵を知り、己を知り」につながること。なるべく全ての受験校の問題に目を通しておくようにしてください。

 

配点と合格ラインの把握

以下は、一部の学校の入試配点と合格者平均点、合格者最低点などを並べたものです。合格者平均非公表の学校は最高と最低からの推計値で、赤にしてあります。

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算国最低水準は、理社で満点を取れる場合の、算国で必要な得点率。開成は最低218点、理社満点だと140点なので、残り170点中の78点、約46%が必要になるのに対し、麻布だと約17%ですね。

理or社満点残は、理社のいずれかで満点の場合の、残り3教科で必要な得点率。開成は残り240点から148点で約62%に対し、麻布は約38%。算or国八割残は、算国のいずれかで8割を取れる場合の、残り3教科で必要な得点率。開成は約67%、麻布は約37%。

何かが突出して出来る観点でこの2校を比べると、かなり違いがあると言えますね。これらは「理科で満点を取れば」などと目論むためではなく、国語や算数の問題との相性や配点比を見た上で、どこで得点を狙うかの作戦を練るために使います。4科目で合格点を取れば良いので、ひとつにこだわり過ぎないようにしましょう。

 

入試では、偏差値は絶対的な指標にならない。

複数入試で倍率や偏差値が高い日は難関という印象になりますが、実際の入試問題と合格者最低点を見ると、どちらかで合格平均を取れるレベルであれば、もう一方で最低点を上回るのが困難というほど差はないことも多いです。

例えば芝の1日は偏差値60で、4日は偏差値65。1次の合格者平均点は215.3、2次の合格者最低点は202点です。平均点、最低点とも6点ほど上がるので難化しているのは確かですが、問題の難易度に極端な差がある訳でもなく、1次に受かる実力のある子が2次に回ると絶望、というほどの差はありません。

逆に、1月の渋幕は偏差値70、最高285、平均211、最低188に対し、2月は偏差値69で最高273、平均238、最低227になります。こちらも問題の難度自体に極端な差はないので、1月で188点以上と2月で227点以上を比べると、1次の合格者平均点と同じ得点でも届かない2次の方が、偏差値的には1ポイント下がるけど厳しい入試と言えます。

ですから、芝熱望であれば2次加点のことなど抜きでも両方受けることを勧めますし、渋幕熱望なら全力で1月合格を取りに行かせる、といった話になります。高偏差値で落ちる子の何割かは本命でなく、対策を十分にしてきた子より苦戦しやすいケースもあるので、偏差値は絶対的な指標にはなり得ません。入試は、みんな同じ条件の模試とは違うものです。

子供の得意教科、その中でも得意な問題傾向によって、入りやすい学校はかなり違います。併願校は偏差値だけで見るのではなく、過去問の傾向と合格ラインをしっかり分析しておかないと、「偏差値的には余裕があったはずなのに」なんて後悔のタネを蒔くことになりますので、併願校であっても必ず過去問には目を通しましょう。

 

過去問を使って、取捨選択とペース配分を覚える。

過去問と全く同じ問題はまず出ないのに、制限時間通りに何年分も解くのは、問題の傾向に慣れる=ペース配分を掴む目的が大きい。だから、解きっぱなしにしないことが大切です。

一度やって不正解問題の解説解答を読み、合格ラインを超える得点分の問題を仕上げ、今度は時間内に解き切る練習をする。更に類似の問題をやり込んで、似たような問題が出た時の得点源にする。これを受験まで回すのを推奨します。

以前の記事に書いた、模試の直しとほぼ同じイメージですね。“次の偏差値レベルに足りない問題”を、“合格点に足りない問題”に置き換えるだけ。一度解く→合格点に届くために必要な問題を選ぶ→きっちり仕上げる→合格点を取る、という流れです。

これをやって、合格に必要な問題数と時間配分のイメージを掴む。本番で全問正解はまず無いので、A.解ける問題→B.歯が立ちそうな問題→C.部分点狙いの問題→D.捨てる問題という順位付けとペース配分に慣れることが大事です。

問題をざっと見ていくのと同時に、解けるA問題はやってしまう。それで、残る時間がどれくらいあるか。残り時間に応じて、歯が立つB問題にどれくらい時間をかけるか、Cはどうするか。C問題だと思っているなら、尚更足跡を残すために、条件の書き出しや途中式をしっかり書く。

その子の実力や特徴によって、まず漢字をきっちり埋めようとか、計算は検算までやってから次に進もうとか、図表問題は最後に回そうとか、傍線を引きながら問題文を読もうとか、色々な心構えや約束事を作っていきます。

こういうペース配分のためにも、本番と同じ枚数構成の実物があるとベスト。余白、ページめくりの感覚が同じなので役立ちます。ただ、問題の傾向が変わった時にペースを崩す危険もあるので、過信は禁物。

傾向が変わって焦るのは、ほとんどの受験生が同じ。見たことのない出題形式でも、変な答えになっても、B〜Dのいずれかに入れて淡々とやった方が勝つことを伝えておきましょう。

これも以前の記事で書きましたが、かなりの学校の説明会当日や事務室などで、前年の入試問題実物が購入可能です。販売は数百円〜1,000円のところが多く、無料配布のところもあります。数年分遡って販売しているところもあれば、前年分のみのところもあるので、早い段階からある程度志望校を決めている場合は、4〜5年生時にも足を運んで複数年度分を入手しておくと良いでしょう。

実物を入手できない場合、過去問題集の解答用紙は指定サイズが書いてあるので、拡大コピーして使います。問題は四谷大塚の過去問データベースからダウンロードしたPDFをプリントして、本番風の冊子にすると良いです。感覚を掴むために、とりあえず1回分は本番サイズを用意してやらせる方が良いでしょう。

過去問データベースのPDFはスキャン品質に難があることもありますが、A3プリンタがあれば大抵の過去問を実寸で再現しやすいので便利。プリンタがなければ、コンビニのコピー機などを利用しましょう。プリントして実物に近いものを作る場合は、こちらのブログなども参考になりそうです。

 

予行演習としての取り組み

本番では厚着にマスク、暖房の入った混雑した車内や、列をなす受験生と保護者、更に入試本番の緊張感が重なり、子供によっては寝不足になったりもします。ごくノーマルな状態とは違う感じになるのが「普通」なので、なるべくイメージを近づけるため、他塾の模試でも志望校で受けられる機会は押さえておくと良いですね。

過去問も、休日の朝から試験当日の朝を想定してやってみると良いです。私の場合は12〜1月に、入試と同じ時間に起床して食事を取り、電車移動して会議室で過去問をやることもありました。保健室や別室受験の予行演習みたいな感じですね。無理なく出来る範囲で良いので、近所の図書館や自習室に行ったり、マスクもしたままやってみたり、本番のつもりで解く機会は設けてあげてください。