偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

夏から秋にかけての親の心構え その2の補足

前回の記事で、認識のチェックについて触れたところがありました。

だから、枠を広げて、気楽な構えをなるべく作っていく。「子供は別の人格」「目の前のことに集中しやすい=他のことは忘れる」「友達の影響も受けやすい」「感情の影響が大きい」...いろいろありますが、見聞きしたものから、自分の子供に似ていること、ハマると感じることがあったら、それをしっかり認識できているか、チェックしてみてください。

期待をしちゃいけないって意識ではなく、現在の子供の能力や状態に対して適切な幅の期待かどうかに注目しましょう。自分の子供に対する期待なんて、そうそう捨てられませんから。出来もしないことをやるより、出来ることで前進する方が、遠くまで行けます。

この部分についてご質問があったので、補足しておきます。

理想基準でなく、子供本人を基準にした期待にする。

期待はあったほうが良いです。誰にも期待されないのは良いことではありません。親が期待するから、中学を受験する環境を与える。そのこと自体は、野球やサッカー、空手や剣道、ピアノやバレエ、英語や電子工作、そういう習い事やお稽古事の環境を与えてあげるのと変わらない。どの分野にも困難はあるし、上に行くほど厳しい闘いにもなる。

将来の年収と教育コストの比とか、そういう計算なんかもあるけど、割に合う合わないで考えるのは難しいです。学びやすい、刺激を受けられる仲間のいる環境を与えてあげる。その結果、難関大学や海外に行くかもしれない。医者や法曹や官僚や研究に進むかもしれない。起業するとか言い出すかもしれないし、芸能や全然ジャンルの違う世界に進むかも知れない。与えられるのは可能性や選択肢で、リターンを求めるのは難しい。

それなりの時間やお金をかける以上、その選択肢が広がる「良い学校」に行って欲しいくらいのことは思う。どうでも良いとはなりにくいし、なる必要もないけど、その基準を間違えると、目標に手が届かないどころか、無用の傷を負うリスクが高い。

難関校に合格した子の話とか、合格するために必要なこと、あるいは合格に必要な勉強量や勉強に対する姿勢、偏差値など。こういう情報を頭に入れるほど、つい「あるべき姿」が自分の中で形成されて、基準になってくる。でも、適切な度合いを超えた期待は、却って目標から遠ざけます。

ちょうど良い期待というのは、実力に見合っていて、もう一歩先に進むことを期待し、しかもそれがどうすればできるようになるのか、方法や道筋が見えていること。遠いゴールを目指すのは良い。でも、次の一歩を期待する。その後押しをして、一歩の前進を喜べる状態を自分の中に作る。

以前の記事でも書いたように、今できることの一歩先を期待して、励まし支える方が効果が高いし、何より自分の期待で相手を傷つける言動をするリスクが減る。自分の感じる辛さ、しんどさも少ない。親がやった方が良いのは比較じゃなくて、方向があっているかのナビゲーターや、回復を助けること。

たくさん勉強できる子。自分で管理のできる子。主体性を持って取り組める子。質問を活用している子。成績の良い子。そういう子の話をどんどん頭に入れていくと、そっちが理想になり、それに比べてうちの子は〜ってなる。優秀な子を見て、自分の子にがっかりする。これで得することは本当にないです。

理想形の「良いわね〜」じゃなくて、「うちの子も〜っ」て感じるやつが、子供本人の姿に近いから、モノサシにできる。その状態から、一歩先って何だろう。どうすれば踏み出せるだろう。この工夫。自分の意識のチェック。理想の子と比べていないか。子供にとって無理なこと、そもそも子供に合っていないことを求め、がっかりしてみたり、攻撃的になったりしていないか。

今のレベルや性質に合った次の一歩に期待する。初心者だけに限ったことじゃなく、偏差値70でも40でも、入試1ヶ月前でも3年前でも、これは変わりません。今の本人と、次の一歩が大事。「そこまでは無理でもせめてこれくらいは」って言うのは、自分ではハードルを下げてるつもりでも、肝心の子供の姿が入っていない。

子供に時間やお金を使うのは、子供を追い詰めるためでも、失望するためでもないですよね。元気に頑張らせて、なるべく勝てるようにサポートして。苦しい道のりや、負けてボロボロになって帰ってきたら、それを癒してあげる。このあたりのイメージを保った方が、結果も出しやすいから、二重に美味しいです。

親の強みは何なのか。

別に自分が泳げなくても、信頼できるコーチを見つけて、子供にはしっかり先生のいうことを聞きなさい、って言えば良い。親が泳げないからって、子供が泳げるようにならないわけじゃない。

親の存在が大きいのは、環境を与えるためにお金を出すこと。子供が何度約束を破ろうが、失敗しようが、見捨てないで寄り添えること。これまでも一番長い時間を過ごし、10年以上成長を見てきていること。これからも家で時間を共有すること。この、他人にはできない圧倒的なつながりが親の武器です。

コーチングとか心理学とか、学んで取り入れるのは素晴らしい。勉強そのものを教えるのも良いし、何をやらせるかの管理はやった方が良い面もあるけど、そこが親の最大の強みではありません。塾や外部の人間が出来ることを代わりに家で出来るなら、外に金を使わずに済むだけ。

出来るようになると信じ、出来たら喜ぶこと。一段一段積み上げて行った先が、最高到達点です。それが志望校なら、目標は適切だった。そこにかすりもしないなら、高望みしすぎてた。学力的には勝負できるところに届いたけど落ちたなら、時の運。

やってみないとわからないから、願望のゴールは高くたって良いです。でも、一段ずつ上がっていくしかないし、時には停滞や後退だってある。疲れたら回復を目指すのも立派な次の一歩だし、無限に次の目標をクリアし続けなきゃいけないわけでもない。

親に出来る最大のことは、期待して支えることだから、自分の子供に適切な量の期待をすることが、とても大事。期待値を下げましょう、ってニュアンスではなく、ちゃんと子供本人に合わせましょう、ってこと。あとは宿題やプリントの管理とか、顔色や行動を良く見てあげるとか、自分の出来ることをやって支えていけば良い。

合ってないことをやった分だけ、自分も子供も負担が大きくなるし、傷ついたり、傷つけたりも増える。そのマイナスの分だけ、目標からは遠ざかります。性質、才能、習慣、今の実力。親が良く知っている、見えていることを大事にして、ちょうど良い期待に調整して、次の一段を上がれるように支えてあげてください。