偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

中学受験に、親の「やらなくちゃいけない」という意識は危険

本人が目標への強い思いで「もっとやらなくちゃ」と思うことは悪くありません。問題なのは、親が「これをやらなくちゃいけない」という考えに囚われ過ぎること。

目標までの距離を把握するように努めるのは当然ですが、「これだけやらないと受からない」「こんな成績じゃどこにも入れない」などは、把握ではなく囚われた状態に近付いています。入試問題を知らない以上、やったことが必ず出る保証もありません。

別に綺麗事ではなく、出来ることを増やしていくこと=学力や成績の向上。でも、合格が目的になるあまり、納期のある仕事やシフトのある労働のような意識になる人がいます。あれもこれもやらなくちゃいけない、ですね。

労働と学習の違い

能力的に可能なことは、取り組む時間を確保すれば完了します。労働は「自分の出来ることを引き受ける」ものですから、責任を持って実行するのは当然でしょう。これに対し、学習は「自分の出来ないことを出来るに変える」ことで、労働とは根本的に異なります。

入試はスポーツの試合と良く似ています。練習に励んで力を付け、当日に競うわけですね。学習時間と学力は比例しやすいのでPDCAサイクルで行けそうに感じる方も多いですが、学力の向上にはあまり合いません。最低限は伸びますが、有能な人材には育ちにくいでしょう。スパルタ方式は原住民を奴隷に、市民を兵隊にするには適していても、優秀な人材の育成には適しません。

ある程度の段階に来れば、困難に耐える力も必要になるでしょう。最後のひと伸び、受験前の数ヶ月には、根性や底力を発揮して貰うと良いです。でも、それは基本的な学力+本人が強い意欲やプライドを持つようになってから。まずはそこまで育てるのが先決です。

中学受験を好機として学習習慣や基礎学力を養い、中高の成長や将来に繋げる。部活を一生懸命やっても、そのスポーツで飯が食えるのは極僅かですが、心身を鍛えることが無駄にならないのと同じです。

努力した結果、1年前には出来なかった問題が解けるようになる。ベストを尽くして学力を積み上げていった結果、合格できる学校に通うのが、最適な進学先でしょう。高い目標まで積み上げていく基礎を築くのに適しているのは加点で伸ばす方法です。目標から逆算した結果、実力不相応に焦って減点意識に囚われるのはマイナスです。

まずは育てること

例えば、今泳げない子が10日後までに1,000m泳げるようにならなければいけない。初日はその1割、100mまで泳げないといけない。怒鳴ってでも殴ってでも泳がせる。これは色々な意味でまずいやり口です。溺れたことによる恐怖心や、怒られることへの嫌悪感を持てば、むしろマイナスに働く恐れもあります。

まず初日は水に浮く、顔をつける、5m進む。ほんの数メートル先で待ち、ここまでおいで。次は少し離れて、ここまでおいで。大袈裟なくらいすごい!すごい!その後は少し後ずさりしながら声をかけ続け、もう少し!もう少し!10mや15m進んでしまうわけです。ふりかえり、スタート地点を見る。こんなに来れたね!すごいね!

翌日には息継ぎ。顔を出す瞬間に吹き出すイメージ。泳ぎの形を綺麗にしていく。距離も伸ばして25m。50m。最低限の泳ぎのスキルが付いてから根性です。100m、500m、1,000m。そのたびに、すごいね、順調だね。根性あるな、気持ちが強いね。子供騙しだと思う方もいるかもしれませんが、実は大人も同じ方法で泳げるようになります。

自分の位置から、あと一歩のところまで。そこに行くまで励まされたり、着いたら褒められたりがある。頑張れる。方法がわかっているものは、これで伸びます。多くの相手にこんなエネルギーを注ぐことは難しいけど、子供一人なら可能です。厳しいトレーニングで鍛える効果があるのは、十分に泳げる技術と基礎体力をつけてから。

加点していくイメージが大切

テキストの範囲、100点満点のテスト、偏差値、順位、合格判定、、、こういった数字が並んでいるため、減点の意識が強くなりがちですが、学力を伸ばすには加点に限ります。目標を見る以前に、子供を見ること。まずは子供に地力が育たないと、伸びようがありません。

次はこれを出来るようになろう。次はこれ。出来ることを着実に積み上げていった先に、合格も見えてきます。着々と伸ばした結果が目標(願望)に届かないなら、始めた時期か才能の問題ですから、子供を責めても仕方ありません。まずは適切な段階を踏んでいくことが大事。出来ることを増やしましょう。

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128チームのトーナメント

トーナメントに例えると、出来ることが少し増えれば初戦突破、偏差値50。もっと増えれば二回戦突破で偏差値57、三回戦突破で偏差値62。このあたりからが、上を目指す話の通じる段階です。たくさん増えれば、準決勝、決勝に進めるかもしれませんが、始めた時期や才能も関係してきます。

まだ一回戦レベル=毎日正しく内容の濃い練習も身についていない段階の子に、いきなり優勝から逆算して「今こんなレベルじゃダメだ」なんて言うのはマイナスの方が大きいですね。

加点方式でなく、例えば減点や脅し満載でもとにかくやらせれば、最低限の力は付きます。こっちの方が簡単に感じる人も多いので、とにかくこれで成績を上げてしまうわけですが、自尊心や意欲が育っていなければ、そこで止まります。

より強い相手と闘う段階では、自分のプライドや意欲が大事になってきます。厳しいのが全て悪いのではなく、前半戦で自尊心や意欲を高めておかないと、後半戦で闘えないということ。

出来ることが増えてきた子に、夏前にやることは次の記事で書きます。