例年、四谷大塚の上位層(偏差値55以上、S〜C)では、6月〜9月の組分けでかなり上下動があります。3月には1桁や10番台のトップクラスを取った子が、100〜200番台に順位を下げることも珍しくありません。上位に限らず、48〜52あたりでも数ポイントの上下は頻繁に起こります。
特に、夏休み明けの組分けと合不合で低下すると「他の子が伸びてウチの子が落ちた」「天王山で失敗したんじゃないか」と深刻に受け止める方が多いので、特に5年〜6年前半で良い成績だった場合には「受験期の実力は6年の冬にならないとわからない」ということを説明していました。
6年の前半のスコアは、5年までの範囲でしっかり取れるかどうかの目安。中盤では、難問を幾つ取れたかで上下動が出ますが、秋冬にはほとんどカバーを終え、この時点での実力が1〜2月の受験で発揮される。9月のテストで良くても安心は出来ないし、悪くても心配もない。淡々と11〜12月まで学校別などで実力を積み上げた子が合格していきます。
6年の成績変動が起きやすい理由
以下は受験までの学習範囲をざっくり示したものです。
まず、4年生の学習では、受験に使う植木算や等差数列などの概念が入ってきます。まさに基礎の基礎で、負荷が低い分計算の工夫などが身につきやすいメリットもあり、早くから通塾している子は5年時には有利な位置を取りやすくなります。
5年では受験のほぼ全範囲をカバー。5年から通塾開始だと、素質のある子でも最初の周回では4年以前から学習を始めている子には負けやすくなりますが、出来るまでやることを徹底すれば6年前半でもう一周する時に追いつくので、秋までに5年開始組が毎年1〜2割、Sや学校別に入ってきます。
6年前半でもう一周した後、夏休みではレベルに応じて難関校クラスの応用問題に取り組んだり、基礎を総ざらえしたりといった取り組みをします。秋からは学校別コースに進むか、もう一周応用レベルで周回するかに分かれます。こういうカリキュラムの中で、6年の3月〜9月の組分けでは、偏差値63以上のSクラスの子でも上下動がかなり発生します。
理由は大きく二つ。ひとつめは、より密度の濃いカリキュラムをこなすため、授業や宿題などが増加する上に、個々の弱点克服にも取り組む必要があり、更に学校でも最高学年で様々な学校行事に責任が生じたりすることで、5年時のペース配分では対応できなくなることです。個人差もありますが、これに慣れて自分なりの学習のリズムを掴むのには結構時間がかかります。
もうひとつは、応用レベルの全体的なカバーには半年〜9ヶ月ほど必要なことです。3月の組分けは5年の範囲がどの程度身についたかの目安で、ここに6年時の学習で応用力を乗せていきますが、組分けや合不合で正答率の低い問題を解くのに必要な力を満遍なくつけるには時間が必要なので、その途中段階での模試では得意不得意、覚えたところが出る出ないの運が得点差になります。
学習量を4年で3、5年で7とすると、6年では10以上が要求されます。基礎力10を積んだ上に、応用力を10積む。最終的に20になるとしても、途中経過の12や15の段階では、身についた2〜5の力がハマる問題だと高得点、まだの部分から出れば得点できず、となります。
しっかり積み上げていれば、咀嚼吸収するのが10月あたりなので、合不合で言えば10〜12月の3回、または11〜12月の2回が出揃ったところが併願校決定の目安と考えましょう。第6回の結果まで待ってからでも出願などは間に合いますから、そこまでしっかり歩みを進めることが大事です。
受験前日まで実力は伸びます。合不合と難関校では問題のレベルが違うので、学校別や志望校別でみっちり対策をやった子が得点を上積みできる可能性は高いですし、記憶系は本当に直前にやり直したことで5点や10点稼ぐことは多々あります。受験はその数点を争う闘いなので、前日までやり抜くことが大切です。
第一志望についても、私は基本的に80偏差値基準で話しますが、実際の進学先の生徒の平均は50偏差値に近くなります。例えば開成の80偏差値は71ですが、合格者の平均偏差値は68で、50偏差値の67の方に近いです。つまり、50偏差値なら入る生徒とほぼ同格で、学校によっては3〜40%くらいの判定になる偏差値でも実際の入学者平均に近いこともあります。
合格したい気持ち≒不合格への恐怖が強いほど、4〜50%くらいの判定に不安感を覚える心情は理解できますが、合否の可能性は半々くらいでも、目指して努力して入学する生徒と同等の学力まで辿り着いて、諦める必要は全くないですね。
ただ、特に12月までに思うような成績が出ない場合は、幅広く受けておくことは大事なので、そこまでにきっちりと併願校候補を調べておきましょう。
順位や偏差値の捉え方について
以前の偏差値の記事でも触れているように、上位はわずかな人数で偏差値が大きく動きます。例えば6位から60位になると順位は10倍、偏差値は7ポイント低下しますし、100〜200位台になれば桁数も1桁から3桁になり、偏差値も10ポイント以上落ちます。数字の見た目に大きな変化があるので衝撃を受けやすくなりますが、実質上位5%内に留まっているので志望校変更の必要はなく、9月や10月の一回の模試などには参考程度の価値しかありません。
こういった成績の上下動で親が一喜一憂することは、合格の助けにはなりませんので、5〜10%程度の人数幅を基準にして集団の中での位置を把握するようにしてください。
上位5%校を目指す場合は10%、10%校を目指す場合は20%というように、ひとつ下の幅までの上下動ならあまり気にする必要はありません。年末までしっかり努力すれば必要な学力はつくと考え、継続することが大事です。
特に、夏休み明けの組分けで3〜5くらい偏差値が下がっても、決してがっかりしたり、他の子より怠けたからだ、などと見当違いのことを言わないこと。目安としては以下のような把握の仕方をお勧めしています。
5%校=80偏差値67以上。63までは許容範囲。
10%校=80偏差値63以上。58〜59までは許容範囲。
20%校=80偏差値59以上。55までは許容範囲。
30%校=80偏差値55以上。50〜52までは許容範囲。
もちろん、下振れの許容範囲を超えても即アウトではありませんが、大幅な低下が見られる場合は、意欲の低下や他の心配事などを抱えている場合もあるので、しっかり話を聞いてあげた方が良いかも知れません。「話し合い」ではなく、「話を聞く」ということを心掛けましょう。
繰り返しますが、数%くらいは問題次第で簡単に上下します。怠ければもっと大幅に落ちるので、そこを無理解に責めるようなことがないように注意してください。呑気に構えろとまでは言いませんが、11〜12月までの6年の学習全体で合格力をつける勝負ということはしっかり理解しておいた方が良いです。
9月の組分けや9〜10月の合不合あたりは、まだブレの大きい段階なので焦らないこと、逆に良いスコアでも、たまたまと考えて気を抜かないことが大事です。11、12月の合不合や学校別内での位置で併願プランを確定する気持ちで、そこまでは途中のチェックポイントとして捉えるように心がけてください。
本人は良い点を取るために受ける意識が強いでしょうが、親は「何が足りていないかの検査を受けに行っている」と考えることが大事です。6年の前半のスコアは、5年までの範囲でしっかり取れているかどうかの目安。中盤では難問を幾つ取れたかで上下が入れ替わり、ほとんどカバーを終える11〜12月時点での実力が受験で発揮されるので、良くても悪くても途中経過にすぎません。
マラソンで言えば、30〜40km地点まで先頭集団から脱落していなければ、その集団内での順位は入れ替わっても、最後の数km〜トラックでの勝負になるのと同じです。先頭集団の選手が手を抜いていないように、集団から脱落していない子がサボって意欲もないということもありません。ちょっとした上下動はあるものとして、必要な努力の選別に尽力してあげてください。