偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

自主性に必要なのは、心と行動の自由、自分で考える練習、芽が出るのを気長に待つこと。

前回の記事で、自主性を発揮できるタイミングには個人差があること、その時期がちょうど受験期に重なってくることを書きました。まだ自主性を発揮する機能が備わっていない子に、出来る子と比較して「どうして出来ないの!」って言うのは、高い場所に手が届かない子に向かって「なんであなたはチビなの!」って言ってるのと大差ないので、マイナスです。

で、子供はその機能を獲得したら、その能力を試す時期になります。幼い頃の、立って歩く、言葉を発する、自我が芽生える。これらと同じように、今度は意思の力を試すタイミングが来る。そして、そのことで得られる結果と、周囲の反応を受け取る。とても重要な体験をする時期です。

だから、受験の時期に自主性を育てる取り組みをする。芽を出すまで、陽当たりの良い場所で水をあげ続ける。芽を出しても、やっぱり水を与え続ける。運良くハマれば受験の取り組みが加速するし、ハマらなくてもやらされている感は減少させることが出来ます。自主性が出れば親が楽、出なくても子供と共同で取り組むことが出来る期間が延びるだけ。

ヨチヨチ歩きの時、いきなり公道や水際を歩かせないように、小学生のうちに親の目の届くところでたくさん転ばさせて、また歩かせることが大切です。

心が自由に動くための準備

最初に触れた、心と行動の準備。このうち、心の準備というのは、人の評価を過剰に気にしない自由のこと。嫌われたくない、怒られたくない、馬鹿にされたくない。褒められよう、気に入られよう。下心くらいのレベルなら良いんだけど、特に怒られたり馬鹿にされたりした経験があるほど束縛に働くことも多くて、人付き合いや新しいことへの挑戦も苦手になりやすいから、こういう気持ちからの解放が必要。

つまり、親に怒られないため、気に入られるため、という理由だけでも、なるべく軽減させていく。自分に目的があり、そのためにやることがあり、それをやる、という意識。うちでは自分で考えて行動しても、怒られたり馬鹿にされたりしないんだ、という安心感。

怒ることは、この邪魔になるから控えた方が良いんですね。怒ってしまうと、恐怖や不快感といった、嫌な気持ちを与える。人間にとって、恐怖心というのはとても強力なので、どうしても意識に引っかかりやすい。だから、感情をぶつけ、相手を責めるような「怒り」は、自主性を育てる上では本当にマイナスしかないです。

それに、怒っている人の言っていることは、あまり覚えていないもの。怒り狂って何時間も説教されても、自分が何かをして怒られたってこと以外の記憶が残らない子は多い。それでいて、合間にした雑談は時間が経っても覚えていたりする。記憶力の問題でも、やる気の問題でもなく、心の状態の問題。怒りをぶつけることは、相手の心の耳を自分の手で塞ぐようなものだと思った方が良いです。

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怒りは相手の耳を塞ぐ

やるべきことを決めて、そこから外れていたら、ただ簡潔に外れていることを伝える。怒ったり急かしても、マイナスの効果しかない。ここの認識を強く持つと有利です。アラを見つけて責めるより、一緒に山を登るペースメーカーになる。共同作業で困難に挑む仲間になる。運良くハマれば受験の取り組みが加速するし、ハマらなくてもやらされている感は減少させることが出来る。

結構なお金と時間を注ぎ込み、成否を突き付けられる刻が迫ってくるから圧はなかなかのものだけど、もともと自由参加のもの。早く終わって欲しい、苦痛で困難な時間と捉えるよりも、人生の中でほんの限られた、子供と一緒に目標を乗り越える仲間にもなり得る時間だと捉えられると最高です。

夜泣きも終わる。オシメも終わる。同じように、自主性がない時期も必ず終わります。自主性が出れば親が楽になるし、出なくても子供と一緒に闘える期間が延びるだけ。どっちにしても得しかない。接し方についてはちょっと多くなるので、また別稿を書きます。

自由に行動するための準備

行動の準備というのは、何をして良いか見当がつくということ。例えば、釣りの経験のない子を、道具が一式揃った場所に放り込んで、好きにやれと言われても、どうして良いかわからず、なかなか手をつけられない。工作の経験のない子を工作室に放り込んでも、手近な端切れで遊ぶくらいになる。どうして良いのか、どこまでやって良いのかの判断が出来ないから。

更に怒られないように、迷惑をかけないように、なんて思えば、余計に手が出ない。失敗したくない、という意識も似ている。失敗は、考え、挑戦した結果に得られる経験。学ぶ過程そのもの、という意識が刷り込まれていくと、徐々に初動は早くなり、ミスにもへこたれない姿勢が出来てくる。

だから、家で勉強する方向に引っ張りたいなら、まず「勉強のやり方」の手ほどきをする。単なる学習方法だけでなく、計画の立て方、実行の方法まで。失敗しても叱らない。がっかり、うんざりした顔を見せない。常に、困ったタイミングで、そこはこうすると良い、と穏やかに言うだけ。ざっとやって見せて、やらせて。この、心と行動の自由を与え、信頼して任せること抜きに、自発的に行動することは出来ません。

勉強以外のことをやれば怒られる。他のことも、勉強を早く始めるため、たくさん勉強するためにやること。着替え、宿題、片付け、食事、お風呂、明日の用意、全部が「早くしろ」→「勉強しろ」に繋がっている。だから心理的には一択。でも、その気分じゃない。そうすると、行動がスローになる。気が散る。そしてまた怒られる...この輪を切る力を持っているのは、親です。

では、いつか自分でやる時をただ待てば良いのかというと、それは無理。普通の小学生を放っておいて、勝手に勉強には向かわない。中学を受験させて、なるべく難関に合格させたい欲があるんだから、それでは困る。で、どうするかと言えば、子供と相談する。成績と目標を見て、次の予定を決める。親が振り、子供が考え、実行を繰り返す形のトレーニングですね。

自転車に乗れるように、最初は後ろから支えていても、徐々に手を離す。段々と自信を付けて、最後はI can handle it.(任せて)。自主性って、自分を操縦する技術なので、本当に心の自転車の乗り方みたいなイメージで伝えています。

子供と相談して、実行をフォローする。

今度の範囲、合計○点を取れば偏差値が○になる。そのためには算数○点、国語○点、理科○点、社会○点が良いと思うけど、どう思う?まずここで、目標について相談するわけですね。目標が適切か、自分次第でいけると思うか、配点はこっちが良いとか。子供が思うことを否定せず、感じていることを知るために聞く。目標が低い場合は、自信を無くしている可能性もある。

次はプロセス。算数○点は、基礎がバッチリなら出来るから、予習シリーズのココが完璧なら取れるけど、どうやって完璧にする?国語は、理科は、社会は?こうやって、作戦会議。やること、その方法と量が決まりますね。

方法についても、入れたいものを相談していく。問題の解き方。ノートの取り方。算数なら、条件を出現ごとに書き足す。線分図の書き方。音読のルール。テキストを閉じて書く。色々な方法を、ひとつひとつモノにしていく。

次は、スイッチの入れ方の相談。可処分時間はこれだけ。いつもは、帰宅後にこうしてるけど。この量をやるには、○時から始めた方がいいかな。この日はどうする?それで足りる?じゃあ、帰ってきて○時に、メロディをセットして、それが鳴ったら準備ね。○時には予鈴をセット、録画の準備をして。○時のチャイムで開始。これで良い?最初は何から始める?音読とか、ページとか。

ここで、子供が真剣に話しているのに、時間が割と短めならナイス。本人は、今までそんなに集中してやっていなかった自覚があります。じゃあ自在に集中できるかって言うと、それはスキルなので別問題だけど、本人的には余力がある感覚を持っている証拠。まずはその時間でやらせてみましょう。予定通りにやり、目標に届かず、甘かったって痛感するのも良い経験です。

計画を立てたら、環境も整える。

計画の相談と合わせて、気の散る要因も可能な限り無くしましょう。ゲーム、カード、おもちゃ、テレビ、スマホタブレットなど。少なくとも視界に入らないようにする。可能なら全部無くしても良いですが、無理なものはスーツケースなどに入れ、タイマー式の南京錠を使ってロックすると、時間まで開きません。この場合、入れてロックする役目も子供にやらせる方が良いです。あと、テレビならリモコンは無くして親のスマホから操作するとか、実情に合わせて工夫してみてください。

高価な物を入れる場合、南京錠が壊れた時に備えてワイヤーカッターも揃えておくか、破いても惜しくないバッグなどを使うようにすると安心です。例えば、安価なエコバッグなどのファスナー部分にワイヤーを通す輪をつけるだけでも、破かない限りは取り出せないように出来るので、目的は十分果たせますね。

リビング学習しているなら、勉強する空間の周りに目隠しになるパーティションを作るのも良いです。イメージは、油はね防止のレンジガードみたいな感じで、使わないときは畳んでしまえる方が便利。デスクなら固定式の方が強度が出るので、状況に合わせて下さい。一緒に作って、そこに目標や予定、進捗表にシールなんかを貼ったり。鉄を組み合わせてマグネットで今日の予定を貼るのも良いし、クリップボードを組み込んでも良い。シンプルに、ホワイトボードに付箋を貼って、終わるごとに捨てていく形も使えます。

そして実行面のフォロー。一緒に居られるなら一緒に始めるのがベストですが、仕事や家事もあって、なかなかずっと一緒にはいられませんね。このために使えるのが録画です。録画じゃなく、スカイプFaceTimeなどの動画チャットでも良いですが、開始時間に合わせて親が休憩なりを取る必要があるので、継続はなかなか大変ですね。なので、子供自身に開始を押させる録画が便利です。

機材は安い中古スマホタブレットなどでも良いし、SD内蔵のアクションカメラやWebカメラ+ソフトでもいけます。内蔵型だと連続録画時間は短いものが多いので、特に最初のコマの開始時などに使うと良いでしょう。録画したら、スライダで早送りでも良いので、必ず全て見ること。毎日、毎回見てくれる人がいることが大事です。

監視の印象を軽減するためにも、責める言葉は使わないこと。仮に席を立つ時間が長くても、「あ〜またお出かけですか〜」くらいで良いし、居眠りしていても「寝てるとかわいいね〜赤ちゃんの頃を思い出すよ」くらいで良い。過ぎた時間は戻らないのに、それを責めて更に時間を使い、エネルギーまで減らすなんて損。幸せな気持ちで見てください。子供が勉強していること、それをただ見てあげるだけ。教えるとか立派なお説教も良いけど、見守ることは力になります。

相談して子供なりに納得した雰囲気を作り、物を取り上げたとか、監視しているという印象にならないように工夫することが、子供の自立しやすい空気を作っていきます。全部をコントロールすることは出来なくても、ロックしたり録画したりは出来る。そうやって、自分の出来ることを任せることと、しっかり目が届くように管理することのバランスが、とても大事です。嘘をついたり時間を破ったりすることもありますが、こちらが根負けしなければ良いだけの話。今が練習の時期だと割り切って、癇癪を起こさずに行きましょう。