偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

出来るようになりたいことは、その練習時間を確保する

残り100日期間に入りましたね。今年は都内でも半分近い区の終業式が8月7日で、11週間前の8月9日は短い夏休みの最初の日曜日でした。そして、11週間後の日曜日、1月10日は栄東や開智、大宮開成などの入試日です。

やることは山盛りですが、特にこれからの1ヶ月でやっておくと良いことが、出来ないところの分解練習。効果が出てくるのに1〜2ヶ月、馴染んで安定するまで更に1〜2ヶ月かかるのが普通なので、11月が最後のチャンス。該当する人はきっちりプランを組んで取り組んでください。

12月以降は練習にはあまり適さない

まず1月は、これまでにやったこと、なるべく広範囲の記憶を、なるべく新鮮な状態で試験会場に持ち込めるようにする段階なので、新しいことは入らないと考えた方が良いです。

併願校の入試やその結果の合否で、疲れや一喜一憂もあって安定しにくいので、体調とメンタルを整えて丁寧に仕上げていく時期だと考えておきましょう。

12月になると、徐々に緊張感が出てくる子が多いです。塾でもあと○日などの煽りや冬期講習など、総仕上げに向かっていく雰囲気も高まり、模試の結果もあらかた出揃うので、持ち偏差値と相談しながら出願を決めていく時期ですね。

一般的には50%偏差値前後が実力相応になりますが、得意な範囲が頻出で出題形式も馴染む場合と、その逆では数十点の差があり、相性や対策も大事なので、偏差値は要素のひとつとして、あまり気にし過ぎないことです。

ただ、偏差値足りない+相性良くないが揃っていると非常に厳しいので、50%以上かつ過去問合格ラインを超える学校をしっかり組み込んでおくことも大事。

目安としては、80%未満は計3回くらいに抑えた方が良いです。入試の回数が増えただけ気力体力を消耗するし、更に後半戦まで行くと、早い段階で熱望していた学校の合格が取れていないケースも多い。かなりタフでない子だと、厳しい入試を増やしてもボロボロになるだけで、合格が遠のく可能性もあります。

ある程度安心感、納得感を持って通える学校の合格を持っていて、更に欲張る受験なら良いのですが、もう行きたかった学校はない、気持ちは負け戦、みたいな状態だとメンタルが削られます。持ち偏差値に余裕があり、過去問でも合格者平均を超える学校を見つけて、安全ラインの確保を目指しましょう。

1日2日の午前に実力相応の入試を受ければ4分の1の確率で連敗しますから、3日に合格を持っておくには、2日までに確実に合格できる学校を複数受けておく方が良いです。午後には確実と思える80%以上で余裕のあるところを組んでおくとか、1月に通学面でも心理面でも十分に通えると思う学校の合格を取るとか。

どの学校の対策をどの程度やるか、記憶系の仕上げにどれだけ時間を使い、問題演習や記述練習にどれだけ割り振るか、限られた時間のパズルになってきます。学習内容的にも、過去問を消化しつつ記憶系の強化に取り組む段階なので、新たな練習時間の確保は難しくなります。

だから、現時点で見えている癖の上書きや、新しい技術を入れる最後の機会は、11月だと考えてください。ここが、基本的な練習を積む最後の機会だと思って、しっかり取り組みましょう。

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この一覧カレンダーに出願や入試日を入れておくと、全期間をスマホでチラ見するのに便利なので、使える方はどうぞ。

https://e-tutor.tokyo/data/cal.xlsx

 

言って聞かせるだけでは効果がない

何年か取り組んでいれば、これは実感していると思いますが、どうしても「ちゃんと途中式を書きなさい」とか、「計算を丁寧に」とか、「図を書けって言ってるでしょ」とか、注意してしまう人は多いです。塾講師や家庭教師でも、割といるみたいだけど、まぁ正しいこと言ってるだけですね。免罪符というか、自分はちゃんと悪い点を指摘してる!って安全圏に逃げる効果しかないです。

ほとんどの「指示」や「注意」の効果が薄いのは、絵に描いた餅だからです。言われただけで出来るなら、練習要らないですね。染み込むまで練習しないと出来るようにならないから、どの分野でも何の競技でも、反復練習を積むわけです。

例えば、日々の計算とかやっても計算ミスが減らない理由は、「ミスの原因を解消する練習」になってないことが多いです。箸の使い方を上手にさせたいときに、早食い大食い競争に出場しても、効率悪いどころか逆効果ですよね。でも、なぜか普通に計算問題解かせたり、テストを受けさせて「気をつけなさい!」って言ったりしがち。

技術は①ゆっくり意識してやれば出来る→②意識していれば出来る→③ほぼ無意識でも出来る、という感じで習熟度が上がっていきます。③のレベルなのにミスしているなら指摘する効果はありますが、①に片足突っ込んだ程度で、時間制限と別の目標があるようなことをやっても、技術は上達しません。

上手にさせたいポイントを取り出して、そこだけを丁寧に、最初はゆっくりから練習を積ませないと、ほぼ改善しないまま入試を迎えます。普通は始めてから1ヶ月くらいで変化が出てきて、3ヶ月くらいで身についてくるので、始めるタイミングとしては今がギリギリくらい。

 
取り出し練習に適している技術

取り出し練習に向いている、逆に言えば「しないと改善しにくい」ものは、例えば以下のようなものがありますね。

・小数と分数が混在している、または分数にした方が解きやすい問題を有利な形で解く。
・共通の約数や倍数をまとめておいて、最後に解く。
・速さの問題でわかっている条件を、線分やダイヤグラムに書き出す。
・問題文を読んで、解ける問題、解けそうな問題、難しい問題に分ける。
・本人が読みにくくて間違える、或いは採点者が読めずに点を落とした数字や文字。

これらは、普通に10問とか並んだ問題を、塾や宿題で解いていくだけでは、ほぼ改善しません。通り一遍のことを習って出来るようになる子は現時点で出来てますから、出来ていない子があと100日同じことをやっても、ほぼ出来るようにならないと考えた方が良いです。

出来ない理由を考えると、主に本人の性質と、与えられた条件があります。性質がどうでも、練習さえすれば出来るようになりますが、性質によっては「普通はこのやり方で出来る」ということが、同じ方法では出来るようになりにくい。で、親とか指導者に「気をつけなさい」「前も言ったでしょ」ってやられるだけだと、まぁずっと出来ないままです。

何度も言ってるけど、勉強みたいに正解のあるものは、知能が足りないのでなければ、その子に合う方法で必要な量の練習をすれば出来るようになる。標準以上の賢さがあるのに、他の子と同じようにやって出来ていない部分は、方法や条件設定が合ってないって考えた方が良いです。


なんのためにやるのかの目標設定

割と多くの子にとって、勉強の主目的は「○分で終わらせる」とか「なるべく良い点を取る」になっています。で、同時に複数のことを意識しながらチェックする力は、未熟な子がほとんど。プレッシャーもかかれば更に低下します。

そこに「理解しろ」とか、「わからなければ聞け」とか、「ちゃんと書きなさい」とか、「出来る問題からやりなさい」とか言ってるじゃない!ってなると、最初に出来なければずっと出来るようにならないフルコンボです。

ノートや途中式が綺麗に書けるとか、完璧になるまで繰り返すとか、そういうのは子どもが持ってるこだわりポイントがたまたま合致してるに過ぎません。ポイントが違う子に技術を持たせるには工夫が要ります。

素材任せの定型を渡して、あとは安全圏から正論で責めるだけなら、時給1000円のバイト講師でも出来ますから、自分の子にやることじゃないですね。大事なのは問題解決の方法を考えること。

最低限、受験に取り組む意欲はある前提でも、子供の性質と育ってきた環境によって、何を大事だと思うかが異なります。納得や理解がないと出来ない子、とにかく早く終わらせたい子、怒られるのがとても怖い子、誰かに見てもらいたい子。

その理由をちゃんと見て、その性質自体と喧嘩せずに練習に取り組むのがベストだけど、まぁ多少の軋轢は仕方ないです。今やらないと、12月1月にはもっと深刻な空気になるので、どうせなら11月に喧嘩してでもやっておきましょう。

喧嘩と言っても、こちらから追い込むのは避けて、サンドバッグ殴るとか、大声で歌うとか、誰かに愚痴るとか、呪いの日記を書くとか、とにかく発散を外に向けて。子供の前では頑として「やろう」だけでいくこと。保証は出来ないけど、大抵の場合は練習が足りれば出来るようになるし、出来るようになれば嫌がらなくなります。

人に何かを教えるのは、自分の未熟さを知り、それに向き合うことでもあります。出来ないことや至らないことは、それが表出しただけで、もともとそのレベルなので、そこを減点していくと続けられません。自分の未熟さに気づき、そこを磨いているのなら、自分でそれを応援した方が良いです。責めても伸びないのは自分も同じなので、加点方式でいきましょう。


条件分けと取り出し

例に挙げたものは、どれも一度上手になると、そっちの方が快適かつ安全なので、黙っててもやるようになります。言われてもやらないのは、下手で効果の実感がない、時間がない、余力がない。下手なのは練習しないと上手くならないし、上手くなければ効果も実感しようがないので、工夫できるのは時間と余力ですね。

その子によって適切な方法は無数にあるし、やってみながら調整していくしかないけど、とりあえず確実に有効なのが、その目的だけ取り出して練習する機会を与えてあげることです。

例えば問題の仕分けなら、過去問やテストなどの初見問題で、時間を区切って問題仕分けタイムを設けます。最初の目安は、制限時間の1〜2割。例えば50分のテストなら、10分間で問題に目を通しながら、①いける、②どうにかなりそう、③無理目、くらいにマークしていきます。マークが終わった時間を記録しておいて、残り時間で問題を解いてみましょう。

だいたい馴染んでくるのに2〜30回は必要です。毎日問題を解く時に取り組めば、1ヶ月くらいで消化できますね。問題を読み終えた時点でジャッジする習慣をつけてあげる+③として飛ばした選択が正しかった時には特に褒める、くらいのことをしていくと、無理目の問題を飛ばすことに慣れてきます。

上達してきたら、今度は別枠にせず、①と判断したらそのまま解く、②は戻ってきて解く、③は放置で時間が余った時だけ手をつける、という感じで時間内に判断を組み込む練習に移行していきましょう。これが3ヶ月後に出来るようになれば、入試で10点20点は得します。

図や線分などを書くことも、「問題文を読み、分解して条件として書く」とか「何を聞いていて何がわかれば良いかを書く」という形で取り出し練習をすると、書くこと自体の精度に意識を向けやすくなります。これには、十分に書くことのある問題を抽出して、練習用の問題集を作るのが良いです。

こちらの場合は、書けているものの添削がかなり大事です。慣れないうちは書き出す余白の大きさが合っていなかったり、与えられた条件を全て盛り込めないものなので、そこをどうやれば上手く描けるのか、ひとつひとつ正解を見せて、書き直しをしていきます。やはり数十問消化したあたりから、文章を図式化することに慣れてくるので、上達してきたら普通に問題を解く中で実践できるように切り替えていきましょう。

分数や約数は、単純に見つけた数と最後まで残せたかどうか、それが最も効率が良かったか、の評価をしていくことが有効です。これは日々の計算練習などの中でもできますが、やはり特化した問題集などで数百問くらいこなすと短期間で馴染みます。1日20問やれば1ヶ月で600問練習できるので、丁寧な添削をしていきましょう。本人が納得するようにベストの流れを見せていくのが良いです。

その他のことも同じで、大事なのはそこだけ取り出して時間を与え、そこだけの評価をすること。普通に問題を解いて、マルバツをつけていくだけだと、どうしても時間的な制約とか焦りもあり、その部分に対する集中が出来ません。そもそも他の子と同じ条件でやって身につかなかったんだから、入りにくい種類の技術ですね。集中しないでいつの間にか出来るのを待っていては間に合いません。

必要なのは時間と気持ちの余裕

それが出来れば苦労しないって話なんですけどね。でも、新しい技術に限らず、思考力や応用力から集中力まで、どんなことにも大事なのは時間と気力と体力です。休むこと=悪ってイメージが強いと、全て足りない状態での練習になるので、効果は出にくい。

だから、各個撃破していくと腹を括って、丁寧に練習する時間を設けることと、「見ていないところでの誠実な努力」みたいなのを求めないことは、とても大事。

練習の際には、出来ているところを指摘する。不足は「こうするともっと良い」を1〜2箇所で。10も20も言っても無駄なのに言うのは、排泄行為みたいなものなので我慢しましょう。子どもはトイレじゃないです。出来ないことがたくさんでも、増やすのはひとつひとつ。

見ているところ、目の届くところで、安心してその練習だけに取り組めるようにすることが、普通にやって苦手だったことの上達には必須です。一緒に出来ないとしても、ちゃんと確認して「前進したところ」を評価してあげることが、本人にとっての「やる理由」になります。

どこも不安定な状態のまま進むより、頼れる武器をひとつふたつ増やす方が入試に役立つので、何度か言っても改善しないって気づいてることがあるなら、その練習時間を作ってあげるようにしてみるのも良いです。