偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

スマホで一番怖いのは無課金コンテンツというお話

最近は、受験終了や新入学でスマホを購入したり、勉強せずに触れている時間が長いなど、ゲームも含めた携帯端末との付き合い方がご相談の内容に含まれる機会も多くなっています。

スマホゲームで重課金とか、SNSでトラブルに巻き込まれる、といったことにはリスクを感じやすいですが、子どもには「一番怖いのは無課金のコンテンツに常時触れ続けることだよ〜」とお話しているので、今日はその記事です。

やや強い表現もありますが、リスクを踏まえて賢く付き合うことを目指して、親子でよく話し合ったり、時々振り返ってうまくいっているか確認したり、工夫してもらえると良いですね。

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無課金コンテンツは時間を溶かす

ここで言う無課金コンテンツは、YoutubeInstagramTwitter、LINEなど、基本的に無料で使えるサービスのことです。

これらはとても便利なツールで、既に多くの人の生活に入り込んでいますね。インターネットも含め、これら抜きではビジネスも立ち行かないほどになっています。

これからの時代、スマートフォンをはじめとするデバイスに触れない、インターネットを利用しないのは現実的ではありませんが、大事なのは見る側ではなく、使う側、作る側に行くこと。時間をコントロールすることです。

最も悪いのは、無目的に娯楽としてコンテンツを消費しているつもりで、同時に自分の時間と健康をすり減らしていくことですね。

家庭にファミコンプレイステーションなどのゲーム機が入り込んだ1980〜90年代は、ソフトはまだ買い切りのカートリッジやディスクでした。

ユーザーは体験を買うので、企業は競争力のあるコンテンツを作ることが大事でした。テレビもチャンネルに限りがあり、番組の切れ目が切り替えのタイミングになりました。

ところが現在は、ゲームやSNSなど、入り口が無課金になっているものが主流になっていますね。そして、これが心理的なハードルを下げ、判断の機会を無くし、時間を溶かすことに繋がっています。

映画「マトリックス」では、人類は幻想を見ながらエネルギー源にされていましたが、現代のスマホは楽しんでいると思いながら時間を溶かしている、という構図です。

時間と健康は、命そのものです。子どもの能力や人生を、親が放っておける時間や便利さと引き換えにするのは良い選択とは言えないので、特に未成年でのスマホの時間制限や使用方法については、ご家庭でしっかりお話をしてコントロールできるようにすることが大事ですね。

 

収益の幹は広告モデル

Youtubeを例に取ると、視聴回数やユーザー登録数がYoutuberの収益になります。企業側はこの収益を支払ってでも、ユーザーを吸引するコンテンツが必要なわけですね。

広告モデルでは、ユーザーの視聴時間と行動が収益になりますから、これらの企業はユーザーに時間を消費させ、画面に貼りつかせるための工夫を20年以上積み重ねてきました。簡単に言えばデジタルドラッグを目指しているようなもので、その工夫には以下のようなものがあります。

期待感と通知

いいね、リプやコメントなどの「他ユーザーの反応」を「もしかして」と期待する気持ちです。いじめや炎上など、多くのトラブルが次々と起きても、これらの機能を無くす方向に進まないのは、無くしたら同時に吸引力が無くなり、収益が絶たれるからですね。つまり、無くなりません。

あなたへのオススメ

目的のコンテンツを見終えても、関連の動画やツイート、ニュースなどが表示されることにより、次々と見続ける仕掛けのことです。これにより、見始める時に「○分」などの区切りを持たなければ、あっという間に30分、1時間と時間を溶かしてしまいやすくなっています。

定時性と射幸心

これらは主にゲームコンテンツで用いられるイベントやガチャですが、収益目的のブログやニュースサイトでも大事にされる要素です。生活習慣に入り込むことで「いつも見ている」という行動のきっかけをつかみ、そこから長時間視聴につなげていきます。

 

価値のあるコンテンツはコストが高い

基本的に、価値のあるコンテンツを作るためには発想や経験、熱量や時間が必要なので、そうそう毎日、無限には生み出せません。つまり、魅力あるコンテンツで人々を常に繋ぎ止め続けるのは非常に困難なわけです。

 

怒りと不安は量産可能

毎日でも量産可能で、しかも行動に直結しやすいもの、という条件に合致するのが「怒り」と「不安」です。そういう「言葉」を投げかければ、人を不安にさせたり怒らせたりすることは容易ですね。そして、人は何かの感情を持つと、それを増幅したくなる性質もあります。

ニュースや動画には、コメント欄がありますね。ここにはより刺激的かつ無責任な「一般ユーザーの言葉」を載せておけるので、同じことを伝えるニュースを幾つも見てコメント欄まで読む、といった行動も起きやすくなります。

更に、不安と怒りを足すと「正義感」が生まれます。正義の使者になった人は、石を投げることを厭わなくなりますから、コメント欄を賑やかにして、他の人の怒りや不安を刺激してくれる、最高の人材になるわけですね。

どれほど無礼で攻撃的、あるいは嘘や妄想、支離滅裂な発言であっても、その責は発言者にあり、配信している企業は責任がないという位置取りが出来て、タダで使えて吸引力がある。時々削除するだけで責任を果たした体裁を取れますから、そうそう無くなりません。

 

中身はないのが標準

これは中高生の子に時々試させてみることがあるのですが、ワイドショーのコメンテーターや、頻繁にツイートを繰り返す人の多くは、言葉のセットリストを持っています。

定量のサンプルから言葉を抽出していくと、2〜30の多用する言葉が決まっていることがわかります。あとは時事ネタやホットワードと組み合わせると次の発言内容になるという形で、基本は表計算などに入力して集計しますが、最近は文章作成AIも良いものが無料で公開されているので、それで試してみるのも良いですね。

例えば○○評論家とか○○学者のセットリストだと、「日本は〜」「世界では〜」とか「教育」「虐待」「親の」「役目」「政府」「義務」などなど。組み合わせるホットワードも特定のジャンルと順位に偏ります。

つまり、その発言には「その人の経歴や人格がどうか」は関係なく、刺激に使うセットリストとホットワードを組み合わせただけ=空っぽの紙玉に調味料を塗っただけのものです。中身も栄養もなく刺激だけがあり、それに反応して「この発言はおかしい!」「いやその通りだ!」という状況を作れれば大成功、というやつですね。

これに時間や感情を消費するのは、自分の時間を溶かして、相手のお財布に小銭を投げ入れる作業です。無駄どころかマイナスと言えるでしょう。

 

スマホのリスク

さて、スマホ無課金コンテンツの主なリスクとしては以下のようなものがあります。

①時間を溶かす

課金モデルでは支払い時に痛みがあるため「要不要」の判断をするきっかけになりますが、無課金モデルでは痛みがない=判断の機会がないため、無限に時間を溶かせます。特に目的なくとりあえずニュースやツイートを開き、気づけば30分、1時間、というやつですね。

命というのは、生きている時間で測ります。何歳まで生きた=何年間生きていた、ということですね。そして、親になれば、10代は黄金の時間だったことを知っているでしょう。

学校から帰って16時、就寝が0時くらいだとして8時間。そのうち4時間くらい、スマホで簡単に使えてしまいます。自由に使える黄金の時間を、半分差し出すほどの価値があるとは考えにくいですね。

 

②休憩が休憩にならない

勉強などやることが終わり、休憩の時間にスマホを開くと、目や脳は全く休憩になりません。つまり次のコマに入ると、休憩なしで再開しているのと同じなので、集中力や理解力などのパフォーマンスはどんどん低下していきます。

また、ぼーっとする時間は、記憶のテーブルの整理に使われますが、スマホを見ていればこの時間もありません。隙間時間をスマホで埋めれば、一日中頭の中の整理が行われないので、理解も記憶も閃きも、本来あるレベルより低下してしまいます。

 

③睡眠への悪影響

就寝直前まで目に光刺激が入り続けると、交感神経優位の状態なので寝つきも悪くなり、睡眠時間が減る上に睡眠の質も低下します。

特に思春期は体や脳のバランスが激変する時期で、大人よりかなり睡眠を必要としますから、良質な睡眠の不足は起立性障害や過敏性腸症候群など、不登校の引き金になりやすい症状への防壁を下げてしまいます。

 

前頭前野の機能低下

近年の研究で、前頭前野の司る記憶力や感情抑制が低下し、無感動になる傾向を強めることがわかってきています。また、怒りや不安の感情刺激やSNSでの他者との比較の連続は、メンタルへのダメージを蓄積していきます。

近年のADHD(多動性や注意欠陥など)傾向児童の増加は、幼少期からのデジタルデバイス漬けによる前頭前野の機能阻害+運動機能低下の影響も考えられていますが、仮にこれが一般化するのに10年20年という年月がかかれば、その間に子ども時代を過ごす子には手遅れになりますね。

以前のスペースでもお話したように、前頭前野は10歳〜20歳にかけて髄鞘化が進み発達するので、この時期にマイナスになり得ることは可能な限り控えたいものです。

 

改善のためのポイント

特にリスクが高いのは「目的なしで視聴を始めること」と「目的以外のものに移ること」の二つです。全てを管理することは難しいですし、自立していく中高生の時期にずっと監視はマイナスもあるので、相談の上で「本来の良いと思うこと」との乖離がない付き合い方、コントロールを身につけていくことが大事ですね。ポイントは以下です。

 

触れて良い時間帯を決める

交感神経の休みを考えると、就寝2時間前までに限定することが望ましいです。思春期は8〜9時間寝ても大丈夫な時間に床につき、目が覚めるなら起きて活動すれば良い、くらいの就寝時間を設定する方が良いので、6時起床なら22時就寝、スマホに触れるのは20時まで、くらいのリズムですね。

 

触れる場所を決める

デスクに置かない、室内に持ち込まないといった形で、そもそもスマホを意識する場所を限定することです。気が向けば触れる距離にあるだけでも集中力は低下すると言われていますし、例えばデスクに置いてあれば、通知などに意識が行くので集中力も削がれます。

ですから、リビングや親の部屋など、スマホの常駐場所を決めて、基本はそこに置いておく→使うときだけソファなどで触れる、という流れを作ると効果的です。スマホが主体ではなく、自分が主体であることを大事にしましょう。

 

休憩や暇潰しで無目的に触れることを避ける

休憩に入るととりあえずLINEをチェック、返信したらニュースサイトやtwitter、ゲームのログインをして、また次の休憩でも同じことを繰り返す。これだと特に見る必要があるものはゼロでも、ずっと触っていることになります。

これは本人の自覚次第の部分が大きいですが、目的がなくても無限に時間を使ってしまうことは損が大きいことは伝えておきましょう。

 

他のことをする

一日の中で触れて良い時間は、スクリーンタイムなどでコントロールするのも良いですが、それだけだと幾らでも抜け道を見つけてきます。安い中古スマホなら数千円で購入できますし、中学生にもなればそのくらいの額は内緒で調達する知恵もつきますから、ガチガチ管理には限度がありますね。

塾や習いごとなど、他のことを入れれば、自動的にその間はスマホと距離を取れるので、スマホが手放せないなら単純に「他のことをやる時間」を増やすことも有効です。

電子ではない、紙の本を読む習慣を持つこともプラスになります。タブレット電子書籍やノートアプリはとても便利ですが、学習効果という意味では、目への負担が少なく手を動かす紙の本やノートの方が高い面もあるので、効率を優先する場面と、効果を大事にする場面を考えて、最適なバランスを見つけていってください。