偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

子どもとの向き合い方、学習の進め方など(5/15スペースのレジュメ)

昨日試しにtwitterのスペースを開けたら結構気づいてくれた方がいらしたので、そのままお話ししました。日時の告知やレジュメもあると良いというアドバイスをもらったので、昨日お話ししたことを覚えている範囲で書いてみます。

内容はこの時期にご相談が多い、勉強時間や取り組む姿勢が足りない+衝突が多いというケースと、やってもやっても伸びない・下がるなどのケースについてです。

 

勉強量の不足と衝突

勉強量が足りない場合、どうにかして量を増やす必要がありますが、やらせようとするほど子どもと衝突したり、家庭内の空気も悪くなり、子どもを潰してしまうんじゃないか、といった心配なども出てきます。まずはこういった時のイメージと立ち位置から。

子どもを潰す心配を減らす

「潰す」という言葉をイメージすると、台の上で押し潰すとか、足で踏み潰す、手で握り潰す、などが浮かびやすいと思います。これは、力が対象物に加わっていて、逃げ場がない状態ですね。だから潰れる。

でも、同じ力を加える行為でも、目的地に向かって背中を「押す」とか、倒れそうなところを「支える」、ギャップを乗り越えるために「持ち上げる」、壁を越えるために「押し上げる」をイメージすると、対象は潰れません。これらはそのまま、人に影響を与えたいときにも使えるイメージです。

成果をあげて欲しい、行動を変えて欲しいと思うと、まずは手軽に自分の言葉で相手に変わって欲しくなります。でも、そんなに都合よく言葉で変わるなら、自己啓発本読めばみんながスーパーリーダーですね。だから、子どもよりも状況を変える方に力を向けましょう。

力を直接子どもにぶつけても、それは「自分のリクエストを聞いてくれ」と言ってるだけ。どんな正論も大して役には立ちませんし、うまくいかなければ間違ってるんじゃないかって不安も出てくる。夜には反省しても、また次のテストや勉強態度を見ては怒りが湧いてくる。しんどいループです。

これは力で相手を変えようとしている限り続くので、改善したければ子どもを「思い通りに動かそうとしている」イメージから、「助けようとしている」イメージに切り替えることが大事です。だっこしても、壁を越えるための馬になっても、子どもは潰れませんね。

戦略担当になる意識 

対象を子どもにしないで、成績アップや入試の突破などに向けるためには、子どものやっていることに目を向けること、先の道筋をひとつひとつ具体化することが有効です。家庭学習の「態度」や「量」ではなく、実際に問題と向き合っている「ノート」や「問題用紙」の跡をよく見る。

不正解になっている問題を分野と正答率で分類、問題ごとの解き方の手順の確認とミスのパターンの把握、その原因になっている設問の錯誤のクセなどを見つけましょう。

次に、良い形を見せても10にひとつ返してきたら良い方、30にひとつでも十分くらいの意識で、通じるまで見せ伝え続けることです。そして、何か実践したところを掴まえては喜び、褒める。

とにかくやらないことには、上達もしません。やらないことを責める関わり方だと、やっても下手だったり失敗すれば、やっぱり責めるスタンスになりがちです。ちゃんと聞いてなかった、ここが悪い、ってアラを見つける。でも、それをやられると、新しいことは出来にくくなるだけ。技術の習得にはマイナスです。

不正解になっていても、正しい形の方法を試していたら、やったこと自体を認めて、嬉しいと伝える。これは誰に対しても大事ですね。

嬉しいって「親のための勉強じゃない」とか、そういうつまらないお題目に引きずられないようにしましょう。受験に関わっているなら、同じ目的のために協力しているチームです。まして親なら喜びもあって当然。子どもの挑戦や成長が嬉しいのは、なにも悪くないですね。

 

外の力を利用する

もうひとつ、「子どもに勉強をさせる親」という構図から、「子どもが勉強するのをサポートする親」に変えて衝突を回避するのに有効なのが、外の力を利用することです。高学年でも親にはまだまだ甘えがありますが、外の大人に対してはある程度の外面や責任感が出やすくなってきます。

私の場合で言えば、課題をプリントしたり、解いたものをスキャンして連絡したりを親が受け持つことで、橋渡し役になること+学習指示も外の人がすることで、命じる頻度が軽減することなどが、プラスに働くことは多いです。

こういったポジション替えは、家庭教師や個別に限らず、塾の先生でも頼み方によっては対応してくれる人はいます。単にやるべきことを指示されるだけだと普通の宿題とあまり変わらないので、なるべく添削やコメントをつけてもらいましょう。

宿題のうちは「ノルマ」として処理していたものが、戻ってくるときに「自分への返事」を受け取るイメージになると、早く見たい気持ちになって、勉強に関する行動を能動的に起こすことに繫がります。

特に個別などを利用している場合、問題を解いている隣に座っているだけでは自習室に毛が生えた程度の効果なので、子どもが問題を解いている間に、持っていったものに目を通してコメントをつけてもらったりすると、時間枠も有効に使い倒せます。

 

成績の停滞や下降

4年生までに比べて、5年生になると成績が下がり、量を増やしても一向に改善しないケースでは、学習スタイル自体の改善が必要なことも多いです。

解き直しと周回の重要性

4年生までは「この期間にどれだけ覚えられたか」の競争という面が濃いので、インプットが早く多い子が有利です。これは頭の良さの基本要素のひとつであり、低学年から発揮できる力で、例えば1回で80覚えられる子の方が50の子より有利です。

ところが5年生以降は、前回範囲の定着率が与える影響が大きくなってきます。こちらは短期記憶力以上に、意味づけや関連づけ、復習の頻度などがモノを言います。

例えば前回のものが80残っていると、今回50積めば130になり、以前より1.3倍難しい問題も解けますね。ところが、前回のものが20しか残っていないと、今回80積んでも100にしかならず、短期記憶力自体では勝てる相手にも負けやすくなります。

一定期間の授業やテストを受けて、出来なかったところが勉強するべき場所。そこまでは助走というか、入りやすいところと入りにくいところのチェックみたいなものです。勉強は消化のためにやるのではなく、理解し、使えるようになり、定着させるためにやるものですね。

より多くを次回に持ち越すためには、理解を言語化して自分なりのパッケージで収納することと、適度な間隔を空けた復習が有効なので、何点取れたかだけに目を向けるのではなく、テスト後の復習を大事にしましょう。

 

塾の周回カリキュラムの変化

下の表は、SAPIX四谷大塚の5〜6年の算数の単元出現回数です。 繰り返し薄皮一枚ずつ積み重ねていく形で、記憶の定着と理解の深化を狙っていることがわかります。※回数差の主な理由は、SAPIXでは季節講習単元もカリキュラムに含み、四谷では予習シリーズ・週テストの単元での区分になっていることです。

 

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そして、どちらの塾でも、赤着色した①割合と比、②平面図形、⑤速さ、⑦立体図形の4分野で、全体の3分の2近い回数を使っています。大まかに捉える、置き換える、方針を決める、言い換える、方向を変える、といった思考をつなげていく力が大事な分野でもありますね。

これらの分野は特に相関性が高く、どこかが弱いと難問が解けないか、解けても時間をかなり余分に使ってしまうことになり、多くの入試でも頻出なので、優先的に強化しておくと良いですね。

そして、これらが5〜6年に大きな比重を占めるのは、脳の発達段階とも関係があります。下は4年次の進行です。

 

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こちらでは青着色の③和と差、④数の性質、⑥規則性、⑧場合の数が6〜7割と、5〜6年と逆転しているのがわかりますね。円グラフで分布を見ると以下のような感じです。

 

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データPDF

これは、基本的な規則や語彙などの記憶、計算系の能力は早くから鍛えやすいのに対し、手持ちの知識を連結して試行錯誤するタイプの思考には発達段階があり、大抵の子は5年生の後半〜6年生でやっとまともに使えるようになるためです。

ですから、5年以降の範囲では、これまでの短期記憶の週テスト勝負のような勉強から、より先の模試や組分け、入試までを見越した学習スタイルに変えていくことが大事です。

徒らに量を増やさないこと

このカリキュラムの変化とその理由を把握しておかないと、4年までと同じパターンの学習を続けやすくなりますが、成績が下がるのを学習量が足りないからと考えてその週の量を増やしたり、演習問題にも手をつけたりするのは、逆効果になりやすいです。

これに対応していくには、次のテストに向けた勉強だけでなく、その先に向けての「前の週の復習」を織り込んでいくことが大事です。理解が足りていない箇所を詰めるだけでなく、次に同じ分野が出てくる時に備えて、記憶を時々メンテナンスしておく感じですね。

また、量を増やすことは集中力の低下や疲労の蓄積に繋がり、より一層思考力を奪うので、むしろ量を絞り、確実に解ける、覚えた、忘れないと言えるものを確実に増やすことに注力した方が良い結果に繋がります。特に睡眠は削らないようにしてください。

まだ発達のタイミングが来ていない場合でも、一定レベルまでは思考連結の必要は薄いので、基礎の徹底した周回で定着に努めておきましょう。

 

基本問題の徹底

基礎トレや日々の計算などに取り組んでいても、有効な学習になっていないことは多いです。例えば基礎トレの場合、4日で1セットになっていて、初日の数値替え問題が続きます。

これは初日に不正解になった問題を、解答解説で納得いくまで詰めて、それを瞬時に使えるまで繰り返すことが目的で、同時に典型題で弱い分野がないかのチェックも兼ねています。なので、それに合った使い方をするかどうかがかなり大事ですね。

例えば朝勉時間にとりあえず10問解き、丸付けして終わりだと、同じ問題を3〜4回間違えて終わりやすいので、初日は理解の確認と徹底した仕上げを心がけ、2日目はそのノートなどを見ても良いので完答を目指し、3〜4日目は何も見ないで満点を取る、といった形で進めると良いです。

特にマンスリーでS55以下の場合、基礎トレ+★2まで+DCの解き直しがきちんと出来ていないケースがほとんどなので、不正解を徹底的に潰しましょう。これは発達段階とあまり関係なく習得可能ですし、算数でS50〜55あれば、かなり多くの入試が突破可能です。

また、どの問題集が良いとか、いろいろと評価もありますが、塾の基本問題集さえ完璧でない状態で他の問題集をやるのはオススメできません。

集め方が多少異なるだけで、載っている問題は大差ありませんし、解答解説が〜などと言っても、既に授業を受けた範囲の問題の解説くらい読んで理解できなければ、そもそも上位校には歯が立ちませんから、ゴリゴリ読んで書いて、納得まで持っていくのも勉強のうちです。

そして何より、塾の基本テキストであれば、講師に質問しやすいという絶大なメリットがありますね。

 

たぶんお話したのはこのくらいだったと思います。原稿など用意していなかったので、欠け足しがあると思いますが、悪しからずご了承ください。