偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

やる気のなさと向き合うこと

入試終了から今まで、昨年よりも多いご相談がありました。特に多いのは、成績が伸び悩む、意欲がない、親子でバトルの三点。で、もちろんご本人は悩んでるわけですが、実際よく子どもと向き合ってると感じる方が多いです。中受層自体がそういう傾向で、更に一歩踏み出してメールをくれる人なので、当然かも知れませんね。

相談ではあまりに悪いところは出さないかも知れませんが、子どものことをよく見てる。親が一生懸命関わってること自体、恵まれてる方なんですよね。致命的な言動をやらかせばダメージも大きいので、煮詰まってくる秋冬、そこだけは注意した方が良いですけど。

みんな1人や2人、多くたって5人くらいしか経験ないんだから、親としての振る舞いが上手じゃないのが「普通」。初見の1ゲーム目なんだから。ほんと、5段階の親の通信簿があれば、悪くても4あげられるんじゃないかな。

子どもはひとりひとり違うし、兄弟姉妹に仕事、家庭環境やパートナーの協力、それぞれ違いもあるでしょうけど、その中で気持ちを向けて、一生懸命考えることが出来てるなら、それが親の仕事。ちゃんとやってますね。人格否定とか、肉体的な虐待とか、そういう「絶対しちゃいけないこと」の線だけ引いておけば、大丈夫です。

親が完璧じゃなくても一生懸命向き合って、熱意もお金もかけて、それでコケるなら子どもの運や才能の問題。いつまでも全面的に庇護してあげることは出来ないので、出来ることをやってあげるだけです。

 

何で勝負をかけるか考える

まず、4教科全部好き&偏差値70レベルで得意とか、かなり特殊です。算数イヤ〜、国語意味わかんない、そんなの普通。まるっきりアホなわけじゃなく、他は60あるけどこれだけ50切るとか、その程度のバラツキがあっても全然おかしくない。

だったらそのまま行かせるって手もあります。もちろん全然やらないのはまずいけど、どうやって受かるつもり?って真剣に考えてみる。4教科で合格点取れば済む話なので、均等に偏差値を上げる必要って特にないですよね。2教科や1教科の入試だってあるし。

ぼちぼち過去問の季節なので、問題に目を通しての印象と、合格最低点と受験者平均点から、取れそうな得点を考えてみる。実際に解けば早いですが、解かないで想像するだけなら、倍率にもよるけど50偏差値くらいの子が取るのが受験者平均点だと思えば良いです。

その上で、どこで点を稼ぐか。合格ラインを突破するために、何をどれだけ頑張れるのか、ちゃんと考えてみることです。算数これだけは出来るようになろう、理科はこれだけは仕上げよう、そういう目的意識をはっきり持たせることが、苦手科目と向き合う上でも大事です。

 

やる気がない理由を良く観察してみる

そして、出来ることのもうひとつが、子どもの状況を把握しようとすること。クラス落ちギリギリとか、偏差値上がらない、なのに家では気合が足りない。この理由をなるべく把握して、そこに対する向き合い方を少し変えると、良い流れになることが多いです。

特に、勉強自体に興味ゼロ、苦しんでもいないけど受験意欲がなくてサボってるだけ、ってパターンでなく、受験も辞めたくないし、悔しかったりするんだけど、もうひとつ踏ん張りが効かずにすぐ折れるとか、頑張ってるように見えるのに、全然上がり目が見えないとか、そういう場合ですね。

成績でクラス分けしてる塾は多くて、例えば四谷だとS/C/B/Aとかで区切るわけです。SC混合だったり、S1/S2で更に区切ったり、校舎の規模によって色々ですね。

で、クラス上位の子は学習量も多くて、叱られず前向きに課題に取り組み、成績も上々で、それに比べてウチの子は、、、ってパターン。これ、上位の子が一番頑張っていると思いがちですが、実は下位の子の負担が一番が多いことは珍しくありません。

例えば、前回の合不合の算数の得点と偏差値をBクラスの幅で見ると、54が86点、50が76点、45は64点で、これを1時間に解けた問題数に直すと14.3問/12.7問/10.7問になります。これだけ差がある子が、一緒に授業を受けるわけですね。しかも、算数だけで決めてるわけではないので、算数の偏差値がもっと低い場合もある。

そして、授業のペースはクラスのボリュームゾーンに合わせます。50前後に合わせると、1時間に13問くらいですね。そうすると、45くらいの子は2問の差になる。単純に考えても、同じ授業を受けて2問、穴を残して進むことになりますね。

しかも、一度全部解いてまとめて解説してから次の問題に進む形は少なく、理解が追いつかないうちに次の問題に進むパターンも多い。こうなると、授業でやった問題全部の理解度が低いってことになります。

そして疲労度も、上位の子には余裕のあるジョギングペースでも、下位の子にとってはオーバーペースでせっつかれながらハァハァ言ってる感じで、余裕がないので頭も回らない。小テストを受ければ下位で、気分もパッとしない。

こんな感じで、同じテキストをやっても、時間は余分にかかる、得点も低い、復習しないといけない問題も多い。出来る子の方が、時間は短く、得点は高く、復習の必要な問題数も少ないわけです。下位の子のほうが疲れますよね。一定期間の授業を受け続けても、上位の子は余裕で身につき、下位の子はヨレヨレになる割に身につかない、って構造です。

だから、クラス下位の子は、上位や中位の子に比べて、授業に出るだけ、小テストを受けるだけでも疲れて帰ってくることが多いです。そこをまず意識しておいてください。自分より早く走れる集団と一緒に走って、頑張った子が帰ってくるんです。

 

行動を変えるには、余力が必要

自分の子は賢いはずって思いに、もう上がっていかないと志望校に届かない!って焦りも加われば、盲目的になるのも仕方ないかもしれませんが、実際はこんな仕組みです。クラス下位なのに、もっと頑張らないといけないのに、意欲が薄い!家で頑張らない!って怒ってるのは、見当はずれの可能性が高い。頭がくたびれたら、意欲が出ないのは当たり前です。言ってみれば微妙にうつ状態みたいなものなので、そこに追い打ちをかけても凹むだけ、反発できればマシな方です。

よっぽど突き抜けた子でなければ、少しやれば出来るほどチョロいものではないし、何回か叱られたくらいで行動変容は出来ません。言われてすぐに変えるには、それを常に気にする余力が必要で、その余力自体がないと目の前のことで頭はいっぱいになる。余力のないところに叱っても、叱る→変わらない→もっと叱るのループになるだけです。

下位“なのに”頑張らないのではなく、下位“だから”気力が持たない。それでも歯を食いしばって、或いは気を逸らして、どうにか塾の時間を過ごしてきて。家に帰ると得点の低さ、意欲の少なさで責められる。これで勉強を楽しいと思う子がいたら、なかなかの変態さんです。成績上げたいのに、勉強嫌いにさせるの、逆走ですよね?

だから、表面的に在宅中の学習態度や得点だけで責めるようなことからは抜け出しましょう。どんな状況で、どう闘っているのか、ちゃんと想像してみる。自分の子ども時代、その友人だったとしたら。どんな気持ちで、どんなことを頑張っているだろうか。何が苦しいだろうか。

 

集団塾の指導は偏差値を上げるためのものではない

塾としては脱落者は出さないように頑張るので、時々は下位でもついてこれるペースにしたり、小テスト後の声かけとか、色んな工夫はしています。それでも、集団授業が下位や苦手な子にとってきついのは変わりません。公立の小学校と違って、上位の学力も可能な限り上げないといけないので、全面的に下位に合わせるわけにはいかないですね。

それに、通っている全員の学力が上がれば、塾内模試の偏差値は変わりませんから、通うだけでは偏差値は上がりません。その同じ塾、同じカリキュラムを受けている子の中で、他の子を抜いていくから上がる。塾の言っていることを全部やれば上がるんじゃなくて、そこにプラスαを乗せられるかどうかで変わってくるわけです。全部やれる子が少ないので、全部やれば上がるってのもありますけど、その中身、身につくかどうかが大事。

素質とか課金とか、何かを上乗せしなければ、他の子との相対的な位置は同じですね。部活なんかでも、ど素人からある程度覚えるまではそこそこ伸びますけど、ある程度の位置まで来るとそこで固定して、無限に伸びてはいかないですよね。

これは、どのクラスでも同じこと。B上位からCに入れば、今度は下の方になって、また次の組分けで弾かれてくる子もいますね。で、これがこの子の限界か、ってなったり。でも、常時70台くらいになるとちょっと特徴があるけど、例えば偏差値45と55の子って、そんなに頭の差はない。ハマったタイミングや運と言っても良い程度のきっかけ次第だったりします。だから、その差が固定化されない工夫が必要ですね。

そもそも、日本語が読めて理解できるなら、テキストがある勉強で一番効率がいいのは、最短時間かつ自分のペースでやれる独学。塾とかで教えてもらうのは、理解しにくい部分を説明されることでカバーするのと、一人では維持しにくい強度やペースを保ちやすくなるからです。

だから、とりあえず通って適当なスコアで良いならそのままで良いし、その中で上に抜けて行って欲しいなら、「ペースを保つ」から「利用する」に切り替えていくことが大事。誰かより劣ってるとか伸びてないってことを強調するのは、マイナス面を強化する使い方です。その逆で、何か他の子より損のある状況なことを把握して、自分にとって快適な状況になる手助けをしてあげる。

だって、素質的にお話にならないなら、そもそも期待したり、出来ないこと叱ったりするのが見当違いでしょう?素質がそんなに劣ってないはずなら、何か重石が乗ってるんです。だったら責めるんじゃなくて、重石を取り除くのが仲間のやること。

 

周りをある程度無視して、出来るまでやる。

勉強は正解があるので、そこそこの知能があって、出来るまでやれば出来ます。中受で偏差値40くらい取れる子なら、知能の方はだいたい足りるはずだから、あとは出来るまでやる時間さえあれば出来る。当然ですね。

でも、塾ではペースだけでなく講師やカリキュラムとの相性もあって、自分が出来るまでやれる最適な環境ではないことも多い。だから、そこを自分に都合よく捻じ曲げる工夫をするわけです。

そのために大事なのは、まず「出来るまでやれば出来る」って本当に思うこと。本当に思ってないと、ペースを握ろうとしても小テストの順位や提出物、偏差値なんかですぐ不安になって、しっかりやり切れません。やらせる側が腹を括らないと、人に与える影響はちっちゃくなります。

次に、何をやって進んでいる実感と自信を持たせるか、それでちゃんと合格に近づくか、作戦を練ること。それが決まったら、まずはやることを絞り込んで一点突破を図るのが、割と近道です。

○○が終わるまでやれ、は逆効果なことが多いですね。終わらせるのが目的になる。つまり、間違ってようが答え丸写しだろうが、終われば良いわけです。それはほぼ意味がないですね。

だから、出来るまで、わかるまで、納得いくまで、身につくまでやる。叱るほど、悩むほど熱量をかけられるなら、その方向を考える。いろんなことに手を広げるより、コンディションを上げて、やることを絞り込むのがおすすめです。

 
どう絞り込むか、どう取り組むか

クラス内での位置関係で算数が凹んでいる場合は、算数の強化が手っ取り早いことが多いです。ちょっと怖いですけど、一時的にでも全力を算数に突っ込む。この時に注意した方がいいのは、ただ長時間やるとか、たくさんページ数をこなすとかしても、あんまり意味がないってこと。もちろん、叱っても効果は薄いです。

私が大きく凹んでいる子を見る場合は、算数の範囲を四科のまとめの8章+計算の9つに分けて、まずその1つか2つを集中的にやります。これまでの模試結果を出題範囲別に分類して、正答率の高い問題でも不正解になっている範囲ですね。偏差値が50ない子は全般的に弱いことが多いので、その場合は割合と比、平面図形、数の性質のいずれか+計算の工夫から入ります。平均偏差値55前後のレベルでも、悪い回がある場合はどこか怪しいので、そこを見つけましょう。

基本テキストを使った流れは予習シリーズで説明するので、お持ちでない方は下記の見本PDFを参照してください。

予習シリーズ5年上見本

まず、ひとつの章全体に相当する類題を解いてみます。正解しても手順が正しいかチェック、不正解なら必修例題をしっかりやり直し。なるべく全ての手順の思考を説明しながら、納得いくように進めます。わかったことをノートやホワイトボードに書きながら、自分の口で説明してもらうと良いです。

納得いったら、もう一度類題を解き直し。本当に納得した直後なら、記憶もフレッシュなので類題くらいは出来ることが多いです。もし類題ができなければ、教えてるポイントが違ってる、抜けてると疑って、教える側がちゃんと自分の説明を見直すと良いです。

なんでわかんないの?さっきやったじゃない!ってのはNG。教えてわからない時に、通じてると思って通じてないポイントを探せないなら、外注した方がマシですね。生徒がわからない時に、自分の教え方を疑えないようなら、指導にはならないです。家の中に味方がいなくなるのは悲惨なので、ここは本当に大事。

無事に類題を通過したらその日は終わり。最初から出来た場合は、負荷軽めですね。翌日は前日の類題を見直して、基本問題に入りましょう。前日同様、まず解いてみる→思考を辿る→不正解を納得いくように教える→解き直す、の繰り返し。翌日は練習問題、復習問題と進めていきます。4日でひと通り終わったら2周目に突入、今度は初日に練習問題まで進めることを目標にします。2日目に復習問題までやったら、5年時の週テストの関連回を解いてみる。満点が良いけど、納得のいく偏差値レベル+数ポイントくらいの得点が出来ればとりあえずOK。不正解問題はキープしつつ、別の単元に進みます。

順調に章ひとつを1 週間〜10日で回せれば、全範囲でも3ヶ月かかりません。5年のテキストに自信を持てるようになると、6年の模試でも割と解けます。これも解けた、これもわかった、って問題を外したら、次の予定を立てる。これを入試まで続けていくだけですね。

並行して、計算の基本と工夫の見直し、基本の数字や相似形の暗記は別枠で進めると良いです。こちらは1日20個とか数を決めて日々練習、覚えきれない分は翌日に追加。例えば初日に20個覚えて、翌日のチェックで10個出来たら、別のものを10個追加という形で進めます。50個くらいをひと区切りにして、そこまで進んだら総復習を1日挟んでテスト。漏れはまた次の周回に入れていきます。

応用力とか思考力は、基本になる形を覚えて、自在に取り出せるようになってから、その使い方の工夫として身に付くものです。道具がなければ使いようがありません。基本形が身についてないことがほとんどなので、まずは基本をチェックしてください。必要ないレベルなら、チェックもすぐに終わります。

前進する力があるって感じること

今の時期にこんなことしてる場合じゃ、って思うかもしれませんが、「こんなこと」も出来ずに応用やっても苦しいだけ、劣等感を味わうだけで、ほぼ身につきません。小問集合、一行問題レベルを自信を持って正解できるようにしてからが、応用の出番。

そのためには、塾のカリキュラムに囚われ過ぎない方が良い。出来ることを確実に増やそう、って意識をどれだけ強く持てるかで、結果が変わってきます。必要なこと、何をやれば伸びるか、ってことだけ考える。出来るまでやる。励まし続ける。

知ることや出来るようになること自体が嫌いな子も滅多にいない。出来ることをやって、出来るようになって、それを認めてくれる人がいれば、割とやりがいを感じたり、楽しく感じたりするものです。無理なことをやって責められるのと、逆ですね。どうせ関わるなら、エネルギーを注入して、ちょっとでも元気に、前向きになってもらう方が良いです。

出来るまでやれば、あとは間に合うかどうかだけ。競争である以上、どこまでも上がれるものではないので、夢の志望校に間に合うかどうかはやってみないとわかりませんが、少なくとも、嫌いで苦手、自分は出来ない、って思いまで中学に持っていくことは避けやすくなります。自分の知っている以前の子どもの姿と比べてやる気や自信をなくしているなら、「やれば出来る」を取り戻すことは大事なことなので、やってみる価値はあります。

 

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