偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

子供のやる気がない!ということについて

今日は、ご相談の中でも非常に多い「子供のやる気」についてです。ひとつ前の記事で書いた、自分用の調整時間を持つこととも絡めて書いてみました。

子供のやる気がない、足りない理由

中学受験で親の割合が大きい理由のひとつが、特殊な子以外は受験勉強自体が自主的にやる気にはならないものだからです。特殊な子というのは、大きく分けると下記3つです。

①明らかに周囲の同級生と異質な浮きこぼれ(吹きこぼれ)で、同じ環境に合わない子
②イジメや嫌いな子がいるなど、同級生と同じ学校に行きたくない事情のある子
③電車やマインクラフトにハマる子と同じように、たまたま4教科の勉強が好きな子

特に難関に合う資質は①と③だけ。③は国語や理科など1教科なら珍しくないのですが、中学受験に合う4教科とも上げられるようなタイプは稀です。これは、広告のターゲットを見ても容易にわかりますね。大学受験や資格取得、英会話などのターゲットは、そこで学ぶ本人だけど、中学受験のターゲットは親。

子供が欲しがる年齢でないから、お財布を握っていないから、ではありません。おもちゃでも遊びでもゲームでも、子供をターゲットにした広告は山のようにあり、それに惹きつけられて親にねだる子供も、買い与える親もいますが、中学受験は本人が魅力を感じるコンテンツではないので、訴求する意味がない。

少子化でパイが減っていく市場で、顧客と雇用を確保したい塾と学校。ないパイを増やすには、不安を煽る系の市場開拓をしていくことになります。公教育の不備、高校受験の内申の理不尽さ、大学受験や将来の不透明さ、そして「子供の将来を考える、心ある親はやっている」。今の中学受験市場は、これらを10年20年と積み上げて形成されてきたわけですね。

同じ日本なのに、全国では7〜8%の中学受験率が、首都圏では13〜15%、都内の受験熱の高い地域では25〜50%。私学の生徒数だけではない偏りが生じるのも、ある程度経済的に余裕のある層が「将来への不安」+「みんなもやっている」で煽られた結果ですね。親には「将来への不安」はあるけど、「みんなもやっている」が薄い地域では動機付けが弱いのに加え、都内の高所得層ほど本人が難関大学出身、あるいは職場に旧帝早慶以上の同僚が多い、などの条件も影響を強める。

子供にとっては、別に受験などしなくても、普通に中学生になれる。中学校に通ったこと自体がないので、みんなの行く中学に進学することにそこまでネガティブな印象もない。受験しないと入れない学校の良さがピンと来ないので、お子さんの意欲が「普通の習いごと」や「普通の部活」くらいの熱量なことは、自然なことです。

これを、塾などの特殊な環境で「洗脳」に近いことをしていくのが中学受験の「意欲」の基本です。毎週のテストと偏差値や順位で競争心を煽り、それに向けて競っている仲間のいる環境に身を置くことで、価値観として刷り込む。これに感応しやすいタイプ、競争心の強い性質や、たまたま比べた相手に勝てる資質を持っていた何割かは意欲が出てきます。

ネガティブな感じで書いていますが、私は中高一貫校への進学は肯定派です。YN偏差値45以上くらいだと、全体から見ると上から2〜3割の資質と家庭環境の子が集うので、モラルや進学意識が高い。学校が提供する様々な体験の機会も公立とは一線を画し、高校受験もなく部活や留学など好きなことに中断なく取り組める。更に55以上になると、就職用の学歴としては十分なGMARCH以上が当然の空気。通学の負担が大き過ぎなければ通うメリットがあると思います。

ただ、参加する以上は煽りの影響を少なからず受けること、勉強の本質や、受験の目的はそこじゃないことは、意識しておいた方が良いということですね。何度も「大学進学まで考えたら1周目」と書いているように、どの中学でもその先が大事。勉強を嫌いにさせたり、家庭が安心できない場所になったりしたら、マイナスが大きいです。

 

煽りを受け、費やすお金と時間が増えるほど、不安と切迫感が増す

こんなにやってるのに、成績が上がらない。なぜか。他の子もやってるからですね。週1日の部活で甲子園に行くことはまずないでしょう。でも、週7日でも2〜3回戦で負ける学校はたくさんあります。それ以上は練習の質の差、素質の高い選手が集まっていること、組み合わせの運不運などの要素も絡んでくる。

集団と個人の違い、対戦相手がいる競技と問題を解く受験の違いはありますが、人と競うものは基本的には同じ。努力をしても、相手も同じようにやっていれば差はつきません。塾から提供される膨大な量をこなして得られるのは、脱落する可能性を減らすこと。

これからも他の子と同じように通塾して、同じくらいの努力と年数十万以上の費用をかけて1年を過ごせば、同じような偏差値帯の学校を数回受けて1〜2校の合格を取れるのが基本線ですね。塾が学力向上に素晴らしいプログラムを提供して、全塾生の学力が上がれば、その塾内での立ち位置は変わりません。

この基本線を、他の子が100m進むところを105m、110m進めるようにする手伝いが家庭教師や個別ですね。その分、外注費用が嵩みます。親は重課金するほど成果が欲しくなり、更に絡め取られる仕組み。単にお金の問題だけでなく、色々なことを我慢して時間もかけて、偏差値の高い学校に行けなければ「子供の頭が悪い」とか、「親の教育が悪い」というプレッシャーも強烈になる。

でも、このプレッシャーを子供にぶつけても、ほとんどプラスはありません。むしろ子供の認識の中では、勉強が「苦しいけどやらないと怒られるもの」になって、好きになるのとは逆方向に進む。親に対する印象も、自分の苦しさや努力を理解するより、スコアや基準との比較でもっと頑張ることを求めてくる人。そんなに良い印象とは言えないですね。

 

子供の意欲を引き出すには親の意識を変えると良い

親の勉強に対する意識が変わると、子供の意欲にも有利に働くと考えています。勉強が楽しいものだと思っていること。その楽しさを教えてあげる、一緒に遊ぶ延長のような感覚が良い。自分が嫌なものを押し付けて、責任論で怒鳴りつける人とか、想像してみてください。げんなりしませんか?

例えばトイレの掃除や、寒い中の窓拭き。山のような書類の数字チェック。楽しくなさそうな、キツそうなことを「やれ」と指示して、遅いと怒鳴る。汚れや間違いを見つけては叱る。たまに来て、責任感がないだの、もっと高い意識を持てだの言っていなくなる。これで楽しむとか、意欲を持つとか出来る人は、かなり特殊枠でしょう。

だから、キツいことは率先してやって、至らない箇所は直るまで付き合う。あと笑顔。ビビらせない。むしろ一緒にいれば、怖い相手が来ても平気って思えるくらいの安心感。このあたりは大事です。必要な厳しさは頑丈な態度で示せば良くて、怒りや攻撃性で示す必要はない。

一流大学に入りたい!とかで、苦労して努力して徹夜して受験勉強した人とか。必要だから、決めたから、根性で苦労を乗り越えた。それ自体は素晴らしいですけど、そのノリを中学受験に持ち込まれるのは邪魔なことの方が多い。高校生と小学生では、体力も目的意識も全然違うからですね。

高学年にもなると、子供が急に大人びたり、生意気を言うようになる。大人より詳しいことも出てくる。でも、それで相応の大人らしさを求めるのはズレてます。掴まり立ちやヨチヨチ歩きから、上手に歩ける、跳んだり走ったり出来るまでは時間がかかりますね。生意気を言える段階と、中身が伴うまでにも時間差があります。いっぱしの口はきけるけど、それに伴う責任やその後の展開を想像するには経験が足りていない。

高校生や大人みたいなことを言える頭と、小学生の経験。アンバランスな時期だから、大学受験や仕事と同列に並べることは出来ません。あくまで小学生の習い事のひとつとして、楽しさとか、やりがいを感じやすく仕向ける方が良い。

何かに詳しくなったり、出来るようになって、しかもそれで評価されるってのは楽しいことです。小学生の頃にハマった遊びとか集めたもの、思い出してみてください。大したことないことに熱中したり、欲しかったもの、ありませんか?

今のソシャゲの課金とか、トレカも同じですね。そのコミュニティの中で価値のあるものに反応して、射幸心や競争心が煽られる。このあたりの意識を、うまく勉強に向けることが大事です。

勉強で評価される場所は、既にありますね。塾や模試。なので、あと用意するのは楽しさです。塾のカリキュラムは、かなりの量と密度で、楽しんでいられない。ついていくのがやっと、こなすのに必死、って状態になりやすい。

だから、そこで少しブレーキを踏んであげる。1〜2割はカリキュラム以外に目を向ける。少しくらい、課題が終わらなくても良いって気楽さも同時に伝える。だって、課題を「やること」自体には、ほとんど意味がないです。こなすことに必死→成績上がらない→もっと頑張れ、ってのはどんどん苦役になっていく悪いループ。

あれはみんなにやらせるだけ。その回数で完全に身につく子はほぼいない。やらなくて良いとか、意味がないってことではないですよ。全部こなして、全部身につくのが一番だけど、優先順位をつけるなら、身につく>こなす。自分の身になるペースを見つけることの方がより重要。

勉強で大事なのは、身につくまでやることです。そして楽しいこと。出来た!わかった!なんか出来るようになってきた!って感覚を味あわせてあげる。そして得点を取らせて、塾の先生や仲間から「すごいね」って声をかけてもらう。もっと出来るようになりたい、って思わせるのが近道です。ご褒美で釣るのも、短期なら効果があるので、要所要所で組み合わせるのはアリ。

そのためには、問題を解いている時に、険しい顔をしない。出来ないことを責めない。イライラしない。合コンでも想像してみてください。相手がつまらなそうな態度、気が散っているとして。人の話はちゃんと聞け!って相手を責めてもモテませんね。相手の態度が悪いなら、自分の話が退屈なところを変える方が良い。話が面白ければ、もっともっと、ってせがんでくることだってある。教えるなら、解答暗記するくらいきっちり準備をして、のんびりニコニコの方が良い。

 

自分の時間で仕上げるプラン

偏差値40台くらいで苦戦している場合は、何か一冊仕上げることを考える。例えば、算数の4科のまとめは50項目、例題は3問しかありませんが、ちゃんと納得して自分でも丸々説明できるように仕上げると、かなり力がつきます。解説と遜色ないレベルで解けるかどうか、確認しておきましょう。

1日3問で、完答ならそれでおしまい。出来る範囲なら15分くらいです。出来ない問題は、しっかり解説を読み、わからないならわかるまで聞く。解答を丸写ししても良いですが、その場合は翌日以降、何も見ないで再現すること。

5日やったら、6日目には1〜2時間くらいで該当範囲のポイントチェックをテスト形式で解きます。1問2分目安ですが、全問確認することが大事なので、1問4分まではやっても良いです。それで解けない問題は不正解に入れる。不正解問題は、7日目に例題と同様に納得いくまで解説を読んだり、解答を丸写ししたりして、これで1セット。10セット回すと10週間なので、これから始めればGWあたりには1周終わりますね。

2周目は、最初のポイントチェックで不正解になった問題だけを適量で解いていきます。3分の1、100〜120問くらいあるとして、1日5問でも3週間くらいで終わりますね。ここでも不正解があれば、やはり解説精読、書き直しをします。このペースで夏までに3周は出来ますし、2周やったら6年上までの予習シリーズの問題をやっても良いです。これが仕上がれば偏差値50超、これまで塾でやってきたことの歯車が噛み合えば、55以上に来る可能性も十分にある。

で、もうひとつのプラスは、そんなに辛そうに延々とやらなくても力がつく経験をできること。親とニコニコ楽しくやって、自分の力が伸びた経験を与えられたら、相当なプラスです。そんなに簡単には運ばないでしょうけど、目指す価値はある。少なくとも、親はイライラ、子供はこなすのに精一杯ってだけの毎日よりは、伸びる見込みがあります。

塾はあくまで、全体向けに全範囲をやらせるペースメーカーに過ぎません。出来ないことをそのまま放置したら、穴だらけになる。自分の理解や知識を仕上げる時間を確保することが、どの段階でも必要です。嫌でも仕方ないから決まったことをやる、仕事どころか苦役のようなイメージを持っているなら、それを拭うことも大事ですね。

 

おまけ

新型コロナウイルス、感染力は高く重症化率は低い、、、云々は置いておいても、特定のウィルスだけ選んで防御する方法もないし、インフルやノロも貰わない方が良いので、この機会に感染予防の習慣をしっかり定着させておくと良いですね。昨日公開された、東北医科薬科大学病院の新型コロナウイルス感染症 市民向け感染予防ハンドブックはコンパクトにまとまっているので、ご参考に。

おまけのおまけ。着けないけど好き。

 

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