偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

中学受験後の心配について

最近の相談、偏差値アップとか併願校選びの他に、合格しても深海魚になったらどうしようとか、今でも結構反抗気味なのに、中学入ってしっかりついていけるだろうか、なんてお話があります。今日はそのあたり。

集団には学力の偏りが存在しますね。中央付近が多くて上下に飛び抜ける子もいるのが、普通の分布です。でも、これは中学受験を突破して入学してくる子たちにはあまり当てはまりません。入試というテストを受けた集団の、上何割かで切り取った分布だから、その時点では裾野が広い形になるのが普通です。

例えば、大抵のテストの得点分布はこんな感じ。倍率3倍の入試合格者の得点分布だと、合格ラインの上3分の1を切り取った裾の広い形になりますね。飛び抜けて出来る子はいても、飛び抜けて出来ない子は混ざりにくい。

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また、入試によって多少変化しますが、合格者平均点以下の合格者は半数ではなく、6割強を占めることが多くなります。で、合格者平均点と合格者最低点の差は10〜40点、多くは20点前後。10点の間に100人とか200人が固まっているんですね。

これは繰り上げ合格者を含めても同じ。正規合格の最低点には何十人か並んでるのが普通だけど、こことの差が「4教科で1点」だから、1問分にもならない。正規の子が算数で部分点を3点稼ぎ、繰り上げの子は社会の2点1問正解とか、そういう僅差。

背伸びして合格しても深海魚になるって話は、この分布自体を誤認しているケースもあります。確かに模試などのテストを受けた集団の最低点は突出してるのが普通だけど、上から何割か取り出した合格者の分布は下が広い形状で、入学選別の時点では「深海」は存在しないんですね。上が1割、少しマシなのが3割、どんぐり6割みたいな分布。

それまでの偏差値は〜って人もいるけど、同じテストで選抜して受かる子に、大した差はありません。総合力では上位の子が、たまたま苦手が重なったり、緊張や体調不良でスコアを落とすことはあっても、知らない問題や出来ない問題を正解することはない。

上の方でコケる奴がいても、どんぐりが入る隙間が増えるだけで、実力がかけ離れてる下の方から受かることはないですね。どんぐりの背比べの中で、有利不利がある程度。

入試で突出したスコアを叩き出す子は明らかに有利なこともあるけど、合格ボーダー層でも入学時点ではほぼ互角に闘える相手が6割くらいいるはずなので、どんぐりの中のトップになれば平均は超える。

進学校勤めの友人や取材先の先生にも同じことを聞いてみましたが、下位固定層が入試の得点とあまり関係ないのは共通認識です。ではどうして「深海魚」が生まれるかと言えば、入学後の学力の積み上げに失敗するからですね。その原因になりやすいことを書いてみます。

 

勉強嫌い

一番危険なのはコレですね。義務とか圧力で頑張って、解放されちゃった。それこそ、もう勉強しなくて良いんだ!とか思っちゃったとか。組分けでせっかく上位クラス入りして、1ヶ月サボるのと同じことをやっちゃうパターン。合格が全て!って認識でいるとハマりやすいので、注意しましょう。

学力の伸び悩みにも共通することだけど、面白さを感じていない子は危ないです。親子共々、受験を突破するための義務とか労働みたいになってる。特に、約束したからには守れ!不合格になるぞ!頑張れ!って成分が多すぎると良くない。ちょっとくらいはスパイスになるけど、義務感と不安感と劣等感がメインでは、息切れが来ない方が珍しいし、終われば解放されちゃう。

綺麗事じゃなくて、面白さと自分の進歩や成長を感じることって、続けるのにはとても大事な要素です。一番の基本は、教える側が面白がること。学ぶ内容そのものの面白さに加えて、子供の成長を見る面白さ。ほ〜らスッキリした、面白いだろ?とか、昨日より出来ること増えてるじゃん!って感じ。

もちろん通じない独り相撲には注意した方が良いけど、親や教師が眉間に皺寄せて修行感丸出しとか、焦ってキリキリしてるようだと、子供が楽しめる可能性は減ります。

全てをこのために犠牲にしてきた〜とかは危ない。何度か書いてるけど、最終学歴の大学受験まで3〜4周あるレースの1周目です。学力で競うレースから降りないなら、気を抜く所じゃない。合格して勉強しなくなると、不合格より損失が大きくなる可能性がある。

これはセッティング次第で割と回避できますね。なんのための受験か=より高いレベルの環境に身を置いて、学業に取り組むため、って気持ちをしっかり持つ。合格したらやること、英数の勉強とか、探究系の取り組みとか、そういう視野を持っておく。

受験は「終わった〜!」って気を抜くポイントじゃなくて、「始まるぞ!」って気合いを入れるところです。緊張の反動とかあるのは普通なので、気持ちをしっかり固めて、備えておきましょう。

 

キャラ獲得ミス

難関上位校に入る子は、学校でも塾の校舎でも最上位層だったりします。でも3分の2は入学後はどんぐりチーム入りなのに、小学校のノリで入ってしまうことがある。授業を真剣に聞いてなかったり、提出物もサボったりとか。こうなると、授業の難度や進行は小学校とは段違いなので、沈んでいくのは必然ですね。

授業態度とか提出物、部活や友人関係の中で、真面目とか頑張り屋のポジションじゃなくて、怠けたりサボったりする位置に入っちゃうと、それが定着するのに時間はかからない。1年の二学期くらいまでで大体決まって、そのまま6年過ごすこともあり得る。だから、もし一学期でそこそこ真面目にやって真ん中より下なら、夏に気合入れて挽回した方が良い。

これも基本だけど、同じ授業、同じ期間でテスト受けて下の方になる科目、特に赤点ゾーンの場合、赤点クリアしてもあまり意味ないです。倍の時間かけて平均以下に届く程度だと、次の期間も同じようになるケースが多い。

だったら3倍4倍やってでも、平均以上、むしろトップクラスじゃない?って思うくらいまで仕上げた方が良いです。特に数学や英語は、満点になるくらいやり込む。そうしないと、二学期以降も低迷ルートが濃厚。そのまま行っちゃいます。

学力って、素質以外に前提知識と学習方法の部分も大きい。前の範囲が弱いと、同じことを理解吸収するのにも余計に時間がかかるし、学習方法が確立されてないのも効率の悪さになる。二重の不利を背負う期間が長いほど、より勉強嫌いの方向にも進みます。だから、一学期で弱かった範囲は、それこそ受験以上に執着して満点目指すくらいやりましょう。

それと、軽視できないのが生活面です。成長期は朝が弱くなるのに、スマホやゲームで夜更かししてしまう。当然、自宅学習の時間も減り、授業の予習復習も疎かになって集中も出来ない。通学が遠くて部活もハードなんてなったらフルコンボ。勉強どころじゃないですね。

なので、学習習慣とか生活リズムを掴むまでは、スマホは与えないとか、時間制限で監視下に置く方が良いです。夜10時以降は触れないとか、スクリーンタイムは管理するとか。スマホタブレット自体の活用はしていく流れなので、有効なツールとして使いつつ振り回されない距離感を学べるようにしましょう。

 

自惚れ崩壊

自分は結構頑張って宿題もやって、塾にも行くんだけど、成績は下の方。授業と通学時間くらいで勉強終わり、成績トップみたいな子を見て、自分は大して頭良くないって実感する。これを刺激には受け取れず、嫌気がさしたり、劣等感に苦しむタイプがいます。

模試の全体トップ10ですらないのに、「校舎では一番」などの狭い範囲に目線を向けて自惚れてた感じの子は特に危ないですね。その程度だと、相手によっては調子に乗れるけど、強い奴の前では霞む。自惚れと同じ量くらい凹むから、トップ10にも入らないのに自惚れがちな子には、上には上はがいるよ、くらいの声かけはあった方が良いかも。勝ちで自惚れるやつは負けに脆いことが結構あります。

それと、挽回をちゃんとやらせてあげる。上にも書いたけど、下3分の2は素質には大差ないので、やり方次第で上から3割あたりまでは普通に届く。だから、最初のテストで負けたら、本気の挽回を仕掛けた方が良いです。

補習とか追試に回り、屈辱感じて嫌々やって、最低ラインクリアで終わりにしてしまうと、屈辱の上塗りを繰り返す可能性が出てくる。40人中12〜15番くらいになれば屈辱感は薄いし、挽回できたって事実が支えにもなります。結果が与える勇気や自負は大事。立ち位置を低めで固定させないためにも、1年生の間は特に重視しましょう。

それと、「学力が全て」「出来るやつは偉い」みたいな軸だけじゃなく、他の価値観も見せてあげられると良いです。何かに打ち込んで、誰かの役に立つようなことに取り組んでいたり、それで輝いている人を見たりすることで視野を広げておけば、自分の輝く場所で頑張れば良いってことにも早く気付けるかも知れませんね。

 

素質と前提知識

習得に必要な時間=頭のタイプ×前提知識です。数字は適当なので、教える側の人でも見てきた子の範囲によって入れる数字は異なると思うけど、私のイメージだと以下のような感じです。

頭のタイプ とても有利:1 有利:2〜3 普通:4〜5(2〜3) 不利:8〜10(4〜5)
前提知識  十分:1 ギリギリ:2 不足:4〜

( )は適切にサポートできる人がいる場合。受験で通ってくる中には不利なタイプは滅多にいないけど、普通くらいの子はいるし、とても有利な子もいます。最速で1時間で済むものが、タイプ普通×前提不足だと10倍以上かかる感じ。

で、この差に打ちのめされて、逃げに入る子がいる。学校辞めてしまうとか、赤点が1〜2教科許される学校なら捨てるとかすれば良いんだけど、そこまで割り切れず、前提を仕上げることもなく。もちろん10倍以上なんて時間的にも継続不可能なので、常に足を引っ張る教科を抱え続け、授業もつまらない、テスト勉強も苦痛、補習や追試も続く、ってルートに乗ってしまう。

だから、前提知識を十分のレベルまで仕上げるのは、同じ場所で闘っていく上では必須です。それでもトップクラスと同じ土俵で闘うのは厳しいけど、致命傷にならない程度には持っていけるし、とても有利な子は意識の中で別枠に入れてしまえば、それほど屈辱感は感じずに学業に取り組めるようになります。

 

国語力不足

上記と似ているけど、国語力、特に読解力と論理性の部分は、あらゆる教科で根本になる部分です。英語以外の教科書は日本語で書かれているし、授業も日本語。意味を把握する、考える、といった能力の基礎部分も日本語です。

みんな日本語話者だから最低限は出来るので軽視されがちだけど、この部分でも効率はかなり変わってくるので、国語は弱いけど何とか受験を乗り切った子の場合は、要約したり解説したりする練習をした方が良いです。

文章を論理立てて読み込み、頭でわかっていることを、文章にして書いたり話したり出来るように取り組みましょう。入試の選択式の問題を、記述で答える練習をしたり、人に教える機会を持つのも役に立ちます。

 

中学受験を価値あるものにするために

中学受験に失敗があるとすれば、勉強嫌いにさせること、燃え尽きてしまうこと。不合格は最大の失敗ではないです。組分けで負けて、下のクラスに入るだけ。大学まで通用する学力を養う意味でも、自立した人間になる意味でも、入試を終えてからが本番を迎える。親の手を離れてからが、本当の勉強ですね。

中村俊輔選手や本田圭佑選手も、ユースに上がれず高校の部活に行った。受験どころじゃない熾烈な競争を勝ち抜き、日本代表のエース格になるほどの選手が、ユースに入り損ねることだってある。中学受験はそれより若い、まだまだ始まったばかりの地点。勝っても負けても1周目です。

勉強すること、工夫すること、決めたことをやり抜くこと、人と競うこと、結果を受け入れること、そこからも学んでいくこと。将来の糧になり得る、貴重な経験を積んでいるところ。無駄なんてない。無駄にする奴がいるだけ。

勝てば全部揃った高級ツアーの席が取れる。学校が進学とか課外活動とか、色々と工夫して手配してくれるし、同級生も学力や進学意識とかモラル高めの子が多いから刺激をくれる。任せて安心!って感じだけど、逆に言えばそれだけ。

スペシャルなツアーに外れたら、自分たちで宿から食事やアクティビティまで、しっかりツアーを組めば良い。留学でもボランティアでもAIでもロボットでも、学校以外の場所で幾らでも挑戦する機会はあるし、大学受験なんか進学校にも塾利用者は結構いる。何より、どれだけ成長するかは本人次第。

大学まで小4から高3までの9年として、最初の3分の1。これを中学受験期間に置き換えれば、4年生の終わりの組分けテストに過ぎません。そもそも学力が全てじゃないってのは置いといて、これからも学力レースに参加し続けるとしても、1周目ってことは認識しておいた方が良いです。

親としては残り僅かな期間、燃えて頑張る姿を見せて欲しいだろうし、もちろんその先には合格があって欲しい。それは良いけど、そこがゴールじゃない、ってことは心に留めておいてください。親も頑張ってきたんだから、のめり込んでも良いけど、悲観に覆われないこと。勝っても負けても泣いたって良いけど、次に向かうこと。

義務感とか、責任感とか、競争意識だけが強くなると、面白くなくなります。楽しめないことを頑張ると、いろんなところが悲鳴をあげる。そこにハマれば、不合格とか深海魚に限らず、病んだりすることだってある。面白いことはきつくっても壊れない。一歩進むこと。そこに価値や面白さ、成長を認めること。子供のタフさを引き出せるように、潰さないように、残り僅かでも面白がりましょう。