偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

親が教え過ぎていると、夏以降に伸び悩む。黙ることも大事。

夏休みまで40日を切りました。講習や特訓、合宿に宿題。そして秋には、いよいよ志望校別のガチモードに突入。なので、残された時間はそんなに多くありません。四谷だと夏期講習は20万、合宿が7〜8万くらい。ど〜んと30万円が飛んでいきますが、結局ほとんどの子は夏前と偏差値が変わりません。

弱点克服のために、間違えた問題の抽出プリントをやる。基礎の復習を徹底的に回す。小テストで日々の集中力を高めにキープ。どれも良い取り組みです。ただ、他の子もやるから、同じようにやっても抜くのは難しい。同じ層の子は皆、指導ノウハウと合格実績を持つ塾とテキストを利用し、ネットや本でも情報を取って、同じくらいやってくるので、見当違いの努力をする子はほとんどいない。それこそ1日12時間とか圧倒的な量をやらない限り、夏休み明けのテストで2〜3ポイント伸びれば良い方です。

偏差値を上げるのに相応の学習量が必要なのは当然ですが、そう簡単に飛び抜けた量をこなすことは出来ない。大事なのは周囲と比べて成長力が高いかどうか。自分がペースアップしても、周囲も同じだけペースを上げれば順位は同じ。特にS〜C上位の子は、すでに「学習習慣」が鍛えられているので、C下位〜Bの子より頑張れる量も多く、抜くどころか差が開くこともあるわけです。だから、それなりに分析をして、弱点埋めもして、出来ることが少しくらい増えても、偏差値自体は55〜58くらいで跳ね返される。

では、成長力に差をつけるにはどうするか。大事なのは、授業をモノにすることと、常に自分で考えること。執着心やしつこさと言い換えても良いかもしれません。そんなの当たり前、って思いますか?でも、ここを意識的に刺激してあげることを、意外と怠っている。秋になって偏差値が足りない!ってSOSで見ることになった親子は、全員この部分に問題があったので、伸び悩む子にはかなり該当すると思います。そして、改善もできること。理想論ではなく、技術と働きかけの問題です。

授業をモノにする取り組み

まずは授業。伸び悩む子は、授業を有効に活用できていないことが多いです。特に45〜55のBあたりの子は、本人なりに真面目に参加はしているけど、説明を聞いて課題をやるだけ。これだと、脳内で起きていることは、講義動画を見て問題集を解いているのと同じなので、講習に行く時間とお金は周囲に仲間がいる環境に払うようなものです。まぁ刺激にはなりますが、勿体ないですね。

授業がモノにならない子は、“自分に話している”と思っている状態で聞けていません。わざわざ生の授業に参加するなら、一対一で自分に話しかけていると思っている状態で聞くこと、常に脳内で整理対応しながら聞くことが大切です。この改善のために、先生の言うことにいちいち反応して、常に言い換えたりしながら聞くように指導します。ーうん、Aに溜まってからBね。あぁ、ここを超えると底面積が大きな箱って考えるのか。Cはこっちから出る量と入る量の差ね。ーって感じ。

これ自体は本人に言って聞かせるしかありませんが、授業の内容を帰宅後に説明してもらう流れを作ると効果があります。書き殴り、汚いメモでも良いから、先生の言っていることを持ち帰り、自分の言葉にして喋る。説明がわかる、わからないではなく、喋れるかどうか。気分的、感情的な反応を出来ているかどうか。

集団塾での授業は、全部を自分のレベルやペースに合わせて貰えない。だから受け身でついていくので精一杯。なんて個別や家庭教師の売り文句に良くありますが、これこそが思考の放棄。わからないことも無理やり自分の言葉に置き換えて、噛み砕く努力をすることが、頭の中に引っ掛かりを作る。それを家に持ち帰り、見当違いなら親が修正したり、翌日質問してみる。

この繰り返しを続ければ、偏差値は必ず上がります。宿題よりこっちが大事な子は本当に多い。「何をやるか」から「何をわかった/わからなかったか」に意識の重心を移すことが、とても大事です。

自分で考える力を育てるには、教え過ぎずに伴走する

そして、自分で考える力。よく言われる「どうしても受かりたいという本人の熱意が大事」っていうのも間違いではないですが、家庭での取り組みにもポイントがあります。

これまでの記事でも触れてきた、親に「勉強しろ」「早くしろ」って言われがちなのは良くないですが、これは他の記事を読んで頂くとして、もうひとつが親が教えすぎていることです。教えすぎというのは、全部解説してしまうこと。5年生の1周目ならそれもアリですが、6年になってからの2〜3周目以降には適しません。

全部解説されていると、とにかく聞いてしまう。で、それを覚えて、当てはめる。正確に覚えていれば、同じ問題なら一応解けますね。同様に授業も聞いて覚えるだけ。板書をノートに書いたり、指されれば答え、プリントをやって終わり。ってなるわけです。

ところがこれだと、聞いたそばから咀嚼して自分で考える子に比べて、相当に伸びが悪い。そもそも正しいことを言ってるので異論は挟む余地はないし、質問も上手になりません。

これを改善する簡単な方法が、親がなるべく黙る時間を増やすことです。高学歴で自分も中学受験の経験がある親などは、問題を見れば答えがわかる。それを一生懸命説明して、子供も一生懸命聞く。熱心な親ほど、一生懸命わからせようと喋ってしまうし、素直な子ほど、黙って聞いてしまう。

全部説明するのは、自転車を目の前で乗って見せてるのと同じ。天才じゃなければ、見てるだけで乗れるようにはなりませんね。コケても下手でも泣いても、自分で漕がせないと上達しない。

そのためには1問全部を説明せず、ひと区切りごとに黙って、反応を待つことです。例えば、設問から条件を取り出す。この時点で何がわかるか、考えて反応する。計算してみたり、別の図を書いてみたり。ほんの数十秒とか、せいぜい数分で良いので、待つこと。詰まったら、ほんの一歩分だけ、後押しをして、また待つ。この繰り返しが、とても重要な「教える技術」の肝です。

もし教える力があるなら、その力は分析と把握に使ってください。ベストは、同じ範囲で過去に解けた問題を把握した状態で話すこと。詰まったら、その範囲で正解したことのある、同じ要素を使う問題を見せて、どうやって解いた?今は解けるかな?ってやり直してみる。親の説明1に対して、子供が喋る、手を動かすが9くらいを目指す意識でちょうど良い。

せっかく一番近くにいる親が、何をやらせれば良いとか、学習量を増やすことばかりに意識が行っていると、子供の学ぶ力自体にフォーカスする人がいないことになります。学習能力を上げる一番の基本は、考えること。考えるっていうのは、反応して、自分の言葉に言い換えて、使ってみること。計算力アップや基礎知識の暗記で届くラインを超えていくためには、家庭学習でその練習をさせてあげてください。