偏差値60の壁なんてない

中学受験のサポート歴20年以上の経験から、心構えや考え方を公開します。

子供の教え方その1

禁句:なんでやらないの?なんで出来ないの?どうしてそんなことしてるの?
建前:考えさせる、自覚を持たせる
本音:自分の理想通りに動かないことへの苛立ち

はっきりさせておくべきなのは、親は子を教え導き支える立場であり、しかも中学受験には多分に親の意向、経験、願望などが反映されていて、決して子供個人の気持ちだけでは成立しないということです。

なんでやらないのか、どうして出来ないのかを見つけて改善することが指導者の役目で、それが出来ないなら無責任な外野と同じ。子供に「聞く」時点で指導者失格ですし、実際のところは「聞いているような台詞」で責めているだけです。

鉄棒で逆上がりを教えるとしましょう。出来ない子供は、出来ないことを喜んでいるのでも、何度も失敗したいわけでもありません。でも、積極的に練習しているようにも見えないし、見本を見せても出来ない。この時、子供になんで?と聞いて(責めて)練習を強いたら、効率よく出来るでしょうか。なかなか進歩せず惨めな気持ちを味わうだけでなく、時間を費やしても出来ないという結果もあり得ます。

逆上がりが出来ないのは、腕の引き付ける力が弱い、蹴る力の方向が前方で上に向いていない、回転に変える背中からお腹の動きが出来ていない、の3つが基本原因です。極端に腕や足の力が弱くない限り、これを改善すれば、ほんの数分〜せいぜい30分の練習の間に出来るようになります。

ですから、まずは腕の引き付け、どこに意識を入れると腕が伸びないかを教え、必要に応じてタオルなどで補助したり、横から支えたりして改善します。次に蹴る方向、何度も上に向かって蹴る練習をさせ、「よし、その方向!もう一回!」などと声かけをしながら掴むまで繰り返します。お腹の動きが悪い子は、ヘソの方を顔に近づける感覚を身につけるため、寝かせてお腹に小石などを乗せ、顔に近づける感覚に慣れさせたりもします。このセット全部が必要な子でも、30分もかかりません。

ごく標準的な体力のある子なら、きちんと教えれば必ず短時間で出来るようになります。下位1〜2割には、短時間では難しい子がいますが、中学受験で偏差値40くらいの子は、全体の中で下位1〜2割には属していないでしょう。むしろ、小学校のテストなら上半分に属する子がほとんどですから、正しく教えれば大抵のことはできるようになります。そして、出来ることは嬉しいと感じる子がほとんどです。

ところが、それを教えることも出来ず、出来るようになりたいと言った癖に一生懸命練習もしない、と怒ってしまうわけですね。子供は運動神経や地頭が悪く、勉強や練習する根性もなく、約束も破り親の期待も裏切るダメな人間だ、と感じる経験をしてしまうわけです。これを繰り返すことが、子供の人生にとって良いことでしょうか。

苦しくても頑張るのはスタミナや集中力をつけるためや、定着のための繰り返しなどの「出来ることを繰り返して鍛える」上では必要なこともありますが、理解が足りないとか得意でないなどの「出来ないことを習得する」時には害になります。

逆上がりに限らず、算数でも国語でも大抵のことは、正しく教えてあげれば出来るようになります。出来るように導くこともせずに怒ったり嫌味を言ったりするのは無駄なだけでなく、放っておいた方がまだマシな害を与えることさえあります。

家庭という閉じた環境の中で、絶対的な立場の親がやるべきことは、教え導くか、それが出来ないなら心から寄り添い、応援すること。我慢しろとか、聖人君子になれということではありません。出来る方法を教え、支え、自信と喜びを与えてあげれば子供は伸びますし、それが親にとっても望み通りのことだと認識する必要があるだけです。